「なぜなぜ分析」は万能ではない

このブログにおいて、これまで何度か「原因分析では “なぜなぜ” を繰り返すことが大切」と言い、なぜなぜ分析を強く勧めてきました。ところが先日、なぜなぜ分析を正しく理解していない場面に遭遇しました。なぜなぜ分析を少しかじっただけの人が陥りがちな事例なので、今回紹介したいと思います。

先日、知人から、ある相談を受けました。というか、愚痴を聞かされました。
彼は、IT企業に勤める30代の中堅エンジニアです。かなり優秀なプログラマーで、自身が抱える案件以外にも他でトラブルが起きた時には助っ人として頼られることもあります。

ある日、長く取り引きをしているお客様のシステムで不具合が発生したのですが、数年前にリリースしたシステムで当時開発に携わっていた人たちが全員異動あるいは退職していたそうです。そこで、彼が急遽対応したそうです。彼はそのシステムの開発に関わっていませんでしたが、残されていたドキュメントを参考にプログラムを解析した結果、ほどなくして原因と発生条件が判明しました。

彼は、直属上司に報告した上で、お客様の業務を復旧させるための暫定処置を施し、根本解決までの運用上の注意点(制限事項)をお客様側の担当者に伝えて了承を得ました。その上で、相手企業に対する正式報告のためにそれまでの状況を直属上司経由で上位上司に報告してもらいました。そして、根本対応に取り掛かった時、上位上司から「待った」がかかりました。

上位上司が言うには、
「この対応はおかしい。お客様に迷惑をかけたのなら、直ぐになぜなぜ分析を行って再発防止措置を行うべきだ。なぜなぜ分析のテンプレートを私が作るから、その通りに分析してこい」
と言われたそうです。

知人:「私は間違っていますか? こんな時でも、なぜなぜ分析をやる必要がありますか?」
 私:「君は正しい。その上司が間違っている」


この上位上司は明らかに間違っています。おそらく「なぜなぜ分析」少しかじった程度で、その本質が分からないまま妄信(あるいは知ったかぶり)しているのだと思います。その間違いとは、推測も含めて次の3つです。

1.「なぜなぜ分析はどんなことでも分析できる」と思い込んでいる
なぜなぜ分析は以下のステップで行います。
①起きたこと(事象)を客観的に把握する
②事象を引き起こした直接の原因を探る(第1のなぜ)
③その原因を引き起こした深い原因を探る(第2のなぜ)
④対策を実施すれば再発しないレベルに達するまで③を繰り返す
これらのステップは全て事実でなければなりません。なぜなぜ分析が扱えるのは事実だけです。推測が入ると分析者の思い込みや好みが入ってしまい、正しい分析ができないのです。
今回の事例では、事実が分かるのは②まで(プログラムバグまで)です。関係者がいなくなった時点で、バグを作りこんでしまった原因や見逃してしまった原因は確かめようがありません。事実はプログラムの内容だけです。プログラムしか事実がない状態では「なぜなぜ分析」による原因調査は出来ません。

強いて「なぜなぜ」で分析するなら、作り込み原因ではなく、それまで発覚しないで動いていた原因(逆に言えば、このタイミングで発覚した原因)です。これなら事実だけで分析できます。実際、今回のケースでは、これまで起きなくて今回発生した原因を調べた結果、発生条件が明らかになって暫定処置を取ることができました。まさに、正しい対応と言ってよいでしょう。

2.処置の優先順位を間違えている
事故・トラブルが起きた時に取るべき対応の優先順位は、「1. 応急処置」「2. 根本処置」「3. 再発防止」です。
何か問題があったときは、安全の確保、被害拡大の防止、業務継続が最優先です。その後、問題を解決する根本的な処置を行い、さらに再発防止策を実施します。なぜなぜ分析は「3. 再発防止」を定める際の作業であり、それ以前にやるべき重要なことがあるのです。
  (記事『事故対応・トラブル対応のセオリー』参照)

今回のケースでは、「1. 応急処置」が終わって「2. 根本処置」に取り掛かるところでした。ここで「3. 再発防止」を先に行えというのは明らかに間違っています。

3.「なぜ」を5回繰り返せばいいと思っているのではないか?
「なぜなぜ分析のテンプレートを私が作る」と言っていることから、形だけ理解していることが懸念されます。(実際にどういう物だったかの情報はつかんでいないので真偽は分かりませんが)
なぜなぜ分析は、”項目” と “深さ” の2軸で考えます。なぜなぜ分析について解説するサイトや書籍を見ると、多くは「5W1Hで5回繰り返す」とあります。これを言葉通りに理解して、「どんな問題も5W1Hで5回」のテンプレートを作っているのではないかと危惧しているのです。(実際、過去に5回だけの1軸テンプレートを作っている組織を見たことがあります)
なぜなぜ分析での原因の深堀りの程度は、状況によって様々です。単純な問題であれば5回やるまでもなく簡単に真因が判明します。逆に根が深い問題は5回やっても真因にたどり着けないかも知れません。ですので、5回という “回数” にこだわってはいけません。回数にこだわると、非効率であるとともに、重要な視点を見失う恐れがあります。

また、5W1Hを細かく分析するのは大変です。意味のない項目も多いでしょう。ですので、私は「なぜなぜ分析」を行う際には5W1Hではなく「状況、心理、行動」を考えることを心掛けています。すなわち、
①「どのような状況において、どのように考えて、どう行動したか」を明らかにする
②「なぜ、そうなっていたのか」「なぜ、そう考えたのか」「なぜ、そう行動したのか」を考える
③「どのような状況においても、どのように考えても、正しく行動する」ための対策を講じる
ことが重要だと考えています。
  (記事『失敗の原因(状況、心理、行動)』参照

なぜなぜ分析は形から入ると危険です。思考が硬直してしまい重要な原因を見逃すことがあるからです。また、分析してもいつも「人の問題(作業者のせい)」に帰着するケースをよく聞きます。それでは何の解決にもなりません。なぜなぜ分析は、作業のやり方の問題を明らかにする手法であり、犯人捜しではないのです。

なぜなぜ分析は、形からではなく、その考え方をしっかり理解したうえで行いましょう。考え方を理解して取り組めば、それほど難しい理論や知識は必要ありません。
なぜなぜ分析を解説するサイトは多くあります。まずはそれらを探して確認してください。できれば複数のサイトを見比べて、自分なりの解釈を整理することをお勧めします。
書籍でしっかり勉強するなら、次の本がお勧めです。

コメント