サイレントクレーマーの真実

サイレントクレーマーに関するサイトを見ていて、個人的に少々気になっていることを述べます。

サイレントクレーマーについて解説するサイトはとても沢山あります。どれも同じような内容であり、解説の内容(言葉の意味や対応策など)は間違いではないのですが、必要以上に不安を煽っている解説が多いように思います。「サイレントクレーマーは非常に危険な存在」という印象(誤解)を植え付けて、行き過ぎた行動に誘導しているようにさえ感じるのです。

誤解とは次のようなことです。
・ “サイレントクレーマー” という新たなクレーマーが暴れだした。
・今すぐに「サイレントクレーマー対策」をしないと会社や店が危ない。
・サイレントクレーマーはSNSで攻撃してくる。

サイレントクレーマーとは、”商品やサービスに不満があるが、それを黙っている人” のことです。一見すると凄そうなネーミングですが、中身はどこにでもある普通のことです。
例えば、
「新しいラーメン屋ができたから食べに行ったけどおいしくなかった。もう行かない」
ということはよくありますね。この時、普通の人は店員に向かって「おいしくなかった」と言いません。これがサイレントクレーマーです。
サイレントクレーマーとは、”一度は買ってみたが二度は買わない人” のことです。ですので、サイレントクレーマーは特別な存在ではなく、新たなクレーマーでもありません。人類が商売を始めてからずっと存在しているものなのです。人類だけでなく動物もそうです。ペットに新しいペットフードを与えた時、おいしくなければ次は見向きもしません。

「サイレントクレーマー」という言葉のイメージが、誤解を生む要因の一つだと思います。「クレーマー」という言葉に対して、日本人の多くは「文句を言ってくる人 ≒ 言いがかりをつける人」というイメージを持っています。そのイメージで 「サイレントクレーマー」を訳すと、「黙って言いがかりをつける人 ≒ 無言で圧をかける危ない人」となります。そのため、必要以上に不安を煽られているのかも知れません。日本では「サイレントクレーマー」を「ノン・リピーター」と読み替えた方が良いかも知れません。

とは言え、二度目も買って欲しいので、なぜ買わないのか理由を知りたいですよね。それがアンケートであり、ホームページの “お客様の声” です。つまり、「サイレントクレーマー対策」とは面倒なクレーマーへの対応策ではなく、リピーターを増やすための策なのです。昨今の過剰ともいえる売り込み合戦の中で、”顧客満足” という概念を広めるために生み出された言葉が「サイレントクレーマー」です。この “ちょっとカッコイイ言葉” のイメージに惑わされないでください。

サイレントクレーマー対策としてアンケートを勧めるサイトは多くありますが、アンケートとは感想や意見など “お客様が感じた” ことを集める仕組みであり、クレームだけを集めるものではありません。アンケートはエゴサーチと同じです。ネット上の悪口を気にして心がズタズタになった「エゴサーチ地獄」の話をよく聞きます。寄せられたアンケート回答の悪評ばかりを気にして「サイレントクレーマー地獄」に陥らないでください。

SNSとサイレントクレーマーの関係は切り離して考えた方がいいです。確かにSNSの拡散力は大きいので悪評が広がる可能性はあります。しかし、逆にグッド評価(いいね!)が広がって客が押し寄せるということもあります。ネットの世界はリアルの世界に比べて、いろいろな意味で振れ幅が大きい(例えば、評価の幅、拡散や収束のスピード、客層のバラツキなど)ですが、根本的なことは変わりません。ネットの評価はリアルの評価を良くも悪くも増幅したものと考えることをお勧めします。

商売やビジネスにおいては、「ニーズの把握(お客様が何を欲しがっているか知ること)」が重要です。これは言い換えると「購買動機(なぜ買うのか)」を理解することです。これに対してサイレントクレーマー対策は、「非購買動機(なぜ買わないのか)」を知る取り組みです。購買動機と非購買動機は両方とも重要です。非購買動機ばかり気にしているとお客様の真のニーズを見逃してしまうかも知れません。

購買動機と非購買動機のバランス(どちらを優先するか)は、経営方針や事業戦略によります。
 『100%の人の50点を目指す』… 幅広い客層に受け入れられることを目指す
 『50%の人の100点を目指す』… 特定の客からの熱烈な支持を目指す 
それによっては、一部のサイレントクレーマーは敢えて無視するという戦略もあり得ます。

サイレントクレーマーの動向(非購買動機)ばかり気にしていると、リピーター(お得意様)が離れてしまう危険があります。例えば、ラーメン店が「味が濃すぎる」というアンケートに応えて薄味にしたら、濃い味が好きで通っていた常連は離れていきます。ヘビー・リピーターは、一度不満の限界を超えると二度と戻らなくなります。”ヘビー・サイレントクレーマー” と言ってもいいかも知れません。普通のサイレントクレーマーは、しばらくすれば「たまには試してみるか」となることがありますが、ヘビー・サイレントクレーマーは二度となりません。一度好きになったものが嫌いになると、もう元には戻らない(戻るのはかなり難しい)のです。恋愛もそうですね。

私は過去にヘビー・サイレントクレーマーになったことがあります。地元のラーメンチェーン店の常連だったのですが、一人の店員(おそらくアルバイト)のある行動を目にしてからまったく行かなくなりました。その行動とは、
・入店を迷っていた客が入らずに去っていったときの「チェッ」という舌打ち
・食べている客の目の前で行われる、後輩バイトに対する叱責と嫌味
好みの味だったのですが、店の本当の姿を見たような気がして二度と行かなくなりました。同じチェーンの別店舗にも行っていません。そのチェーン店にもアンケート用紙が置いてありましたが書きませんでした。

新たな客層を増やすことも大事ですが、せっかく定着した常連客が離れるようなことがないように気をつけましょう。
また、サイレントクレーマーに対するしつこい追客(電話、DM、メルマガなど)は逆効果です。

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