チラシの品質(学習報告)

 これまでこのブログでは、主にISO9001を中心とした「モノ作り」の品質と、日本経営品質賞を中心とした「会社全体」の品質について述べてきましたが、今回は一般消費者向けに「モノを売る」ことに関わる品質について述べたいと思います。
 と言っても、私は「モノを売る」ことについては最近関わり始めた初心者ですので踏み込んだ話はできません。関わるようになった頃、勧められた本がとても勉強になったので、今回はそれを紹介します。進めてくださった方への学習報告(本の要約と感想)です。
《作る品質》と《売る品質》では “品質” の意味が違います。《企業》と《一般消費者》では “売り方” が違います。「こういう世界もある」ということを感じてください。


学習報告『売れるチラシの作り方』

◆◆ 書籍名 ◆◆
 『売れるチラシの作り方ハンドブック』
       〈著者〉船井総合研究所 小野達郎  〈出版社〉誠文堂新光社

◆◆理解内容◆◆
 以下、私の理解を、私の言葉で記します。なお、言葉や構成は本文と一部変えています。
 文中「#~#」部分は、私の考え(反論・疑問・解釈)です。

【序論】

■「売れないチラシ」の理由
 ①商品だけを掲載 ②安売りだけを訴求 ③掲載点数が多過ぎ ④インパクトに欠ける

■「当たるチラシ」の条件
 《タイトル》見た人を「ハッ!」とさせる。 #第一印象で心をつかむことが重要#
 《キャッピコピー》分かりやすさが一番大事。専門用語は避ける。
 《ターゲット》「誰に」と「何を」を明確にして「どうアピールするか」を決める。
 《演出》
 ・価値を伝える。商品説明ではなく “顧客にとっての価値” 。[価値>価格]なら買う。
 ・「安そう」というイメージを植え付ける。「安い」と書くだけでは効果は薄い。
 ・「xx祭り」。日本人はお祭り好き。心が開放的になる  #心の隙に乗じる?#
 ・買った後をイメージさせる(おいしそう、似合いそう)。写真やイラストが効果的。
 ・(価値を高める) #これは商品企画や開発時の課題 → チラシ以前の問題#

【各論】

■ターゲットを絞って売る
 《商品グレード別》商品の価格帯によって、紙質、字体、色づかいを変える。
 ・ハイグレード商品:高級感(上質、格式、おちつき)
 ・ローグレード商品:安さ感(普通、柔らか、にぎやか)
 《性別・年代層別》ターゲットごとにアピールする内容や方法を変える。
 ・奥様:「他の人に負けたくない」という心理を刺激する。人混み・行列などの様子。
 ・若い女性:「かわいい」と「特別扱い」が効果的。
 ・大人の男性:「こだわり」を刺激する。年配者は「ロマン」「涙」に惹かれる。
 ・シニア:「安心感」と「読みやすさ」が大切。体験談、大きめの字、縦書きなど。
 ・ファミリー:ママと子供を意識する。「キャラクター」と「特典」で喜ばせる。
 ・キッズ:親心をつかむ。「一緒に楽しめる」「安心感」「期待感(成長)」など。
 ・ヤング:「目を留めてもらう」ことが重要。キャッチコピーや特典が効果的。

■「欲しい」と思わせるコツ
《価値創出》価値が伝わらないと売れない。価値を最大限見せる。
 ・何故それを売るのか:作り手やバイヤーのこだわりや思いをストーリーに仕立てに。
 ・何故それがいいのか:お客様にとってのメリットをわかりやすい言葉で。
 ・どれが「買い」か :「社長・店長のおすすめ」など。  #わざとらしく感じる#
 ・何故それを買うのか:買う人の真の動機・購入決定要因を掘り下げて刺激する。
 ・喜ぶ姿を想像させる:使ってみて喜ぶ瞬間をビジュアルでイメージさせる。
《価値演出》価値を実際より大きく見せる。
 ・リアリティを出す :作り手の名前や写真、数字やグラフ。  #嘘っぽく見える#
 ・利用者の声を伝える:実際に利用した人の声は説得力がある。 #ヤラセに見える#

■新規客の呼び込み方
《安心感を伝える》期待と不安が交錯している人に安心感を伝えることが大切。
 ・不安解消:不安要素を想定してQ&Aを載せる。
 ・親近感 :社長、スタッフ、お客様の顔(笑顔)を載せて親近感をアピール。
 ・繰り返し:一度では不安は解消しずらい。何度も繰り返し発信することが必要。
 ・お試し :「実物を確認してください」。敢えて商品や “売り” を前面に出さない。
《安心するデザイン》淡色と曲線・丸い形。全体的にやさしい紙面。やさしい言葉。
《ビフォアサービス》チラシは、お客様へ情報を提供する「購入前サービス」と考える。

■リピーターの呼び込み方
《プラスの声を吸い上げる》お客様の声をアンケートで吸い上げて生かす。
 ・書き方に条件をつけない。アンケートのハードルを下げる(どんなことでも)
 ・特典を用意する。
《吸い上げた声を生かす》
 ・顧客情報 → ターゲット分析の材料
 ・プラスの声 → チラシへ掲載する
 ・意見、要望(マイナスの声)→ 商品リニューアル時に反映
  #これらは、いずれもリピーターを呼び込む策ではなく、新規客を増やす策#

■安さ感・お得感の演出
《安そうなムード》安売りではなく、安くないものでも安いと感じさせること。
《安そうな色》黄・赤・青の組み合せ。 #確かに目立つが、安さを感じるか疑問#
《価格表示》字体の工夫でメリハリとインパクトを。低価格は派手に。やり過ぎ注意。
《均一価格》お客様の予算感に合わせて段階的に設定。1/2/3/5/10がセオリー。
《理由づけ》「安い理由」は、価格以上に安さ感を与えるのに効果的。
    #訳アリ品、在庫処分などは理由として納得できるが、それ以外の例は疑問#
《特典》目的に応じて4つのステップを設定する。
 ・来店特典:来てもらう
 ・アンケート特典:顧客情報を得る
 ・抽選特典:購買直前アクションにつなげる … 見積り特典、試乗特典など
 ・購入特典:客単価アップ(もう少し買ってもらう)
《低価格帯商品の投入》いわゆる廉価版。機能を絞ってシンプルに。
    #チラシでの安さ演出とは違うが、新規顧客を増やすには効果的#

■心理的販売テクニック
 希少なもの(手にいれにくいもの)は欲しくなるのが人間の心理。そこをくすぐる。
《数量限定》「なぜ少ないか」の大義名分が大事。ストーリー仕立てでリアルに。
《期間限定》3日間限定、タイムセールなど。「いつでもOK」より危機感をあおる。
《客層限定》「他の人より…」「自分だけ特別…」という特別感に人は弱い。
《個別対応》オンリーワン(自分にあった本当に欲しいもの)なら値下げは不要。

■ワクワク感が販促の基本
 買い手を楽しい気分にさせるのが大事。
《お祭りムードを演出》チラシ紙面と店頭イベントで気分を盛り上げる。
《言葉でワクワク・ドキドキさせる》
 ・チラシはお客様へのラブレター。
 ・自分自身がワクワクしていなければ他人をワクワクさせることはできない。自社の思いをストレートに伝えることが大切。
《成功するチラシを作るには》
 ・いろいろなことから「売るためのヒント」を得て、柔軟に挑戦しつづける。

◆◆ 所感 ◆◆  読んでみて感じたことや考えたことを内容と体裁に分けて記します。

【内容に関する所感】

 これまでの会社員(エンジニア)時代の経験と比べながら、とても興味深く読むことができた。以下、特に興味深かったことや気になったことを4点記す。

1.〈B to B〉と〈B to C〉では販促の考え方に大きな違いがある。
・〈B to B〉で重要なこと:正確さ、網羅性、実益
 〈B to C〉で重要なこと:お買い得感(「安そう」というイメージ)
・エンジニア時代は「 “直ぐに” や “とても” など曖昧な表現は使ってはいけない」と言われてきたが、チラシでは「かんたん」や「やさしい」という曖昧な言葉を使うのが効果的らしい。
・〈店長のおすすめ〉〈お客様の声〉など、これまで「信じる人などいるのか?」と思っていたが、一般消費者にはかなり効果があるらしい。ちょっと信じられないが、テレビショッピングがこれほど盛況だということは、本当にそうなのだろう。
・〈数量限定〉〈期間限定〉で売上げが増えることなど企業間取引ではあり得ない。日常生活において私自身はそういう言葉にあまり流されないが、妻は流されやすいようだ。世の多くの主婦はそうなのかもしれない。

2.リピーターを増やす方法が書かれていない。
「新規客・リピーターを呼ぶ”安心チラシ”」という章はあるが、内容はリピーターに関係することのようには思えなかった。再購入する人は一度は買った経験があるのだから安心かどうかは分かっているはず。再購入者に “チラシで安心感” はおかしい。
〈B to B〉では、再購入の決め手として次の4つが重要であると言われている。
 ①高機能 ②高品質 ③短納期 ④誠実なクレーム対応 (⑤価格)
 これらは確かに安心感を与えるが、いずれも「買って・使ってみて」分かることであり、チラシのように「気を引いて、買う気にさせるもの」とは根本的に違う。

3.クレーム対応についてまったく書かれていない。
 2.で述べたが、クレーム対応の良し悪しは再購入の大きな要因の一つである。クレーム対応が悪ければ二度と買ってくれなくなるし、対応が良ければ逆にファンになることも多い。
〈B to B〉では、こちらに非があるクレームに対しては謝罪と再発防止の報告が常識。場合によっては補償も必要になる。「チラシ作り」の書籍なのでクレーム対応は対象外なのかもしれないが、商売にクレーム対応はつきものなので少しは触れて欲しかった。
 また、チラシ自体にも「チラシと違う」「過大広告」といったクレームはあるはず。そういったクレームは相手にしないのだろうか?

4.今後の期待
 今回は「チラシ」という狭い範囲でのテクニックだったが、現代では集客のための媒体は多様化している。船井総研グループはデジタル事業にも力を入れているようなので、今後は売れるホームページの作り方や、SNSや口コミの活用法などをテーマしたものを期待したい。

【体裁に関する所感】

1.本書自体が「売れるチラシのテクニック」を体現している。赤と黄の放射柄を背景に、タイトルや気になる言葉を白縁の黒字で斜めに配置。目的の「売れるチラシ」を極限まで大きくしてアピール。さらに、どこまでが本の名称なのか分からなくなっているのも気を引くためのテクニックか? まさに “チラシ” の要素が満載。とにかく目立つし、何の本なのか一目瞭然。小売業の人には手に取ってもらえるかも知れない。
 目立つ半面、怪しさ・安っぽさを感じる。例えるなら、危ない儲け話の勧誘のよう。また、背表紙はコミックやノベルスを思わせる。

2.見開き2ページで1テーマになっており、各ページの端にテーマが書かれているので今読んでいるテーマが分かりやすい(これは拙著「品質コラム」と同じ工夫)。ただし、章やテーマの体系が少々分かりにくく、テーマの題名と内容が噛み合っていないものがあり、構成がよく検討されていない(書きたい事を思いつくまま書いた)ように思われる。そのため索引型のハンドブックというよりも、読み物(エッセイやコラム)のような感覚で読んでいた。
 また、厚い紙を使っているため、メモを取ったり書き写す際に開いたまま置いておくことができず、その意味でも〈参考書〉ではなく手に持って読むだけの〈娯楽書〉の部類に近い体裁だと思う。

【最後に】
総括すると、今後は次の2点に留意して作業に取り組みたいと思う。
①一般消費者向けの広告は企業向けの販促とはまるで違う。
②チラシは「見てもらって、気を引いて、買う気にさせる」もの。つまり《集客》。その先の《接客》《追客》《顧客(アンケート、クレーム対応)》は本書の対象外。自分は〈B to B〉の《顧客》についての経験はあるが、その他(特に一般消費者)についてはまったく経験がないので、さらに勉強が必要。

以上

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