今回は品質に関係のない雑談です。でも、「自分も本を出してみたい」と思っている人には参考になるかもしれません。興味のある方は最後まで見ていってください。
私はこれまでに書籍を4つ出版しています(紙と電子で同じ内容のものは1つとカウント)。概要は下表の通りです。
以下、[出版に至る経緯] [出版方法] [電子書籍] [POD書籍] [出版社] についてお話します。
【出版に至る経緯】
1.「ソフトウェア ISO9001認証取得への道しるべ」
1995年に初めてISO9001取得活動に関わり、1年半かけて準備して1997年に認証を得ることができました。その時、当時の上司から「せっかく貴重な体験をしたのだから、それを本にしてみたら? 思っているより簡単だよ」と勧められたのがきっかけです。出版経験のある上司からよく体験談を聞かされていたので、私も挑戦してみる気になりました。
上司に出版社を紹介してもらい、企画書を書くことなく企画出版としてとんとん拍子に話が進み、編集者とはすべてメールでやり取りし、費用は全くかからず、執筆以外はほとんど苦労することなく進みました。平日は帰宅してから夜遅くまで、休日はほぼ終日パソコンに向かい、だいたい3ヶ月で書きあげました。その後校正を重ねて、取り組み初めてから約6ヶ月で書店に並びました。地元の書店で見かけたときはとても感激しました。ISO9001が流行り出した頃だったのでそこそこ売れました。
2.「ソフトウェアの品質管理 専門家が教えない大切なこと」
1度目の出版の少し後に、向井千秋さんが2度目の宇宙飛行に挑んだ際「1度なら運ということもあるから2度行きたかった」と言われているのを聞いて、それ以来「もう一回出版したい」とずっと思っていました。
20年後、定年の1年半前に転勤になり東京で一人暮らしを始めた際、これまでの経験や考えたことをまとめて世に出したいという気持ちが大きくなり執筆を決意。少しずつネタを書き留め始めました。執筆の目途が立ったころに出版社にコンタクト。その後は校正と完全入稿データ作成に苦労しましたが、半年後に出版に至りました。
出版して1年後に別の出版社から「電子化しませんか?」とお声がけいただき、興味があったのでお願いしました。その際、どうしても追加したいテーマがあったので電子書籍だけ加筆しました。
3.(小説 … 題名は秘密)
2度の出版ですっかり書くことが面白くなり、思い切って小説に挑戦してみようと思い、若い頃の思い出を題材に3つの中編小説を書きあげて出版しました。
結果は大惨敗。小説は、賞をとって名前が知られないと鼻にもかけてもらえないと実感しました。小説の世界のことはよく分かりませんが、野球少年がプロ野球選手を目指すのと似た感じかな..と思いました。
退職金をつぎ込んだ人生最大の道楽でしたが、空想を巡らしたり、表紙のデザインで娘と話し合ったり、知人に配って交友を温めたりして、とても良い思い出になりました。
4.「エンジニアを目指す人のための品質コラム」
定年退職後に再就職した会社で、これまでの経験を生かして役に立てることがないかと考え、若い社員に向けて「品質とは何か?」をテーマにしたメールマガジンを発信していました。回を重ねて書き留めていたネタを見直した際、「これは本にするのにちょうど良い」と気がつき出版の準備に取り掛かりました。
準備を始めた当初から「読み物だけではダメ。図解による補足ページが必要」と考え、見開き2ページで1テーマの構成にすることを決めていました。
これまでの書籍はソフトウェア品質に限定していましたが、今回はその枠を超えたものにしました。未経験の領域もあり苦労はありましたが、楽しくまた勉強にもなりました。そして何より「若い人の役に立てればいいな」という思いが強くなりました。
そして現在、「人の役に立ちたい」という思いの続きと、自分自身の趣味(道楽?)のために、このブログを立ち上げました。
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【出版方法】
出版したいと思ったら《企画出版》と《自費出版》という2つの道があります。
《企画出版》出版社に企画を持ち込んで出版社の費用で出版するやり方
メリット①作者は費用がかからない
②編集者からアドバイスをもらえるかも知れない
デメリット①企画を認めてもらうのが難しい … そのためのサイトやセミナーもある
②内容を変えさせられるかも知れない … 売れることが優先
③売れても儲けが少ない
《自費出版》出版社にお金を渡して出版してもらうやり方
メリット ①自分の書きたいことが書ける … 公序良俗に反しない限り受け付けてくれる
②もし売れれば儲けが大きい
デメリット①費用が高い … 少なくとも数十万、ものによっては百万越えの覚悟が必要
②内容についてアドバイスを貰えない
出版する目的は人それぞれです。例えば、金儲け・有名になりたい・自慢したい・社会貢献などなど。
企画出版と自費出版のどちらにしても売れなければ一銭にもならないので、金儲けしたい人には出版自体あまりお勧めできませんが、敢えて言うなら、夢を追うなら《自費出版》、手堅くいくなら《企画出版》です。
お金をかけずに有名になりたい・自慢したいという人は、頑張って企画を通しましょう。通ればタダでできます。
社会貢献が目的、あるいは他人に口出しされたくないという人は、本当に書きたいことを自由に書ける自費出版をお勧めします。
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【電子書籍】
紙の書籍と電子書籍は、内容が同じでも別の出版物として扱われます。したがって、紙と電子で異なる出版社でも構いません。ただし、出版社が違う場合、名称は変えた方がよいでしょう。私の場合、【電子書籍版】と明示しました。
紙の書籍と電子書籍では見え方が大きく違います。媒体が違うということだけではありません。電子書籍は作成者がイメージしていたものとまるで違うのです。電子書籍にはリフロー型とフィックス型がありますが、それぞれが紙の本とどう違うのか執筆する立場で述べます。
《リフロー型》
読むときに文字サイズを自由に変えられますが、表示レイアウトが勝手に変わります。そのため見た目が大きく変わります。図を多用する書籍には向かず、主に小説で使われている形式です。
しかし、小説など図を用いない文書でも問題になる(作者の意図に合わない)ことがあります。具体的には、改行や行間や改ページを工夫してテンポを演出した努力がすべて無駄になるのです。例えば、ページをめくった瞬間にインパクトのある言葉が目に飛び込んでくるようなページ割にしても、リフロー型だとただダラダラと表示されてしまうのです。私はテンポやインパクトを気にして執筆していたので、初めて自分の書籍を電子書籍で見たときはかなりショックを受けました。
《フィックス型》
紙書籍のレイアウトをそのまま表示します。主に雑誌・漫画・絵本などに使われている形式です。小さい画面だと細部がよく見えません。画像を大きくすることはできますが、画面に入りきらずスクロールが必要になります。スクロールせずに大きな画面を見るためにはどうしても大きな媒体が必要になるので、視力や体力が落ちている人には読んでもらえにくいでしょう。
結局、作者の意図通りに表現する媒体としては今のところ紙の書籍が最適だと思います。なので私は、紙の書籍を想定して執筆して、電子書籍はオプションにしています。
ちなみに、本を読む立場からしても、紙の書籍の方が優れていると思っています。読み返したり、印を付けたり、持ち歩いたりするときの手軽さがまるで違います。古い人間と思われるかも知れませんが、私はこれからも紙で読み続けたいと思います。
強いて電子書籍が優れている点を挙げるとすれば、置き場所に困らないことくらいかな。
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【POD書籍】
書店にある紙の本とも電子書籍とも違う、第三の書籍の形態があります。POD(プリント・オン・デマンド)書籍です。つまり、必要に応じて印刷する本です。PODは紙の本ですが書店には並びません。ネットでの注文に応じて、必要な数だけ印刷・製本して配送するという出版の形態です。
POD出版は、通常の紙書籍と電子書籍の中間の位置づけと言えますが、それぞれ一長一短があるので、出版の目的に合わせてどの形態にするのか選びましょう。参考に、それぞれの特徴の比較表を載せます。
簡単に言うと、通常の紙本出版に比べてPODは次の特徴があります。
メリット
①(比較的)費用が安く済む
②在庫を抱えなくてよい
デメリット
①(比較的)印税が低い
②書店に並ぶ快感を味わえない
自費出版において費用と在庫管理はかなり深刻な問題です。「費用はあまりかけたくないけど本(物理的な形)にしたい。でも在庫は持ちたくない」と思っている人には、PODがお勧めです。
PODについて知らべていて、ちょっと気になる出版社を見つけました。まだ新しいサービスですが、商業出版(企画出版)と自費出版の中間を目指しているようです。紙の書籍と電子書籍の両方に対応し、サポートもあります。自分の専門性(知識や経験)を世に出してみたいと思っている方は覗いてみてください。
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【出版社】
私がここ数年お世話になった出版社(2社)を紹介します。
《パレードブックス》
「ソフトウェアの品質管理 専門家が教えない大切なこと」を出版したときからずっとお世話になっています。毎回同じコーディネーターさんに担当していただき、問い合わせや相談への素早く丁寧な対応にとても助かっています。
出版社にコンタクトをとる際、いろいろ探して2社に絞り込み面談しましたが、最終的にパレードさんに決めた理由は次の2つです。
(1)ホームページのセンス
シンプルで、ケバケバしくなく、知りたい情報が直ぐに分かるのがよい。今まで見たホームページの中で一番です。さらに、[著者話] というコーナーが素晴らしい。パレードブックスで本をつくった人たちのインタビューですが、自分がやろうとしていることと重なって、とても参考になりました。お店やサービスの広告サイトでよく見る「お客様の声」や「お喜びの声」のようなわざとらしさがなく、著者の方々の本音にじっくり触れることができる素晴らしい内容だと思います。
(2)オフィスの雰囲気
自費出版についていろいろ知りたくて、無料個別出版相談のために東京オフィスを訪問しましたが、その雰囲気をとても気に入りました。明るくて、華やかでありながら落ち着いていて、とても居心地の良いオフィスでした。こういうところとお付き合いしたいと思いました。
販売継続手続きの際に私の無知からちょっとしたトラブルがありましたが、良い関係は継続できていると思います。もしまた出版する機会があれば、またパレードさんにお願いしたいと思っています。
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《22世紀アート》
電子書籍を中心とした創立10年を迎えた比較的新しい出版社です。「作家のために」という想いで、いろいろと革新的な取り組みをしています。
理念や取り組みは素晴らしく期待はしているのですが、その想いが少し空回りしているような気がします。何事にも、もっと落ち着いてじっくり取り組んだ方が良いと思います。
それと、ホームページや、時々送られてくる新サービスのパンフレットや報告資料がかなり分かりづらいので、もう少し改善して欲しいと思っています。私の理解力の問題かも知れませんが..
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以上、出版経験談でした。
結論は、
「本を出すだけなら、思ったほど難しくない。やり方は出版の目的次第」
興味が湧いた方は挑戦してみてはいかがですか? 書店や通販サイトに自分の本が載っているのを見るのはちょっと快感ですよ。
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「自費出版と、出版業界に関する私見」をまとめたので、よかったらこちらもご覧ください。
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