経営と実務 … 英雄の影に兵士あり

8月15日は太平洋戦争の終戦の日です。今年も、この日に合わせて多くのテレビ局が特別番組を放送していました。今回は、そのような映像を見るたびに考えてしまうことを書きます。戦争の悲惨さを伝えたいわけではありません。組織論や、歴史のひとつの見方(思いの馳せ方)を示したいのです。戦争を題材にしているので不謹慎と思われるかも知れませんが、ご容赦ください。

8月15日、多くのテレビ局では、日本が敗北したことを象徴する映像として、玉音放送に聞き入る人々の姿を流していました。ラジオの前に整然と立って聞き入る人たちや、皇居前で地面にひれ伏し泣き崩れる人々の映像です。

また、アメリカが勝利したことを象徴する映像として、マッカーサーが厚木飛行場に降り立つ姿が盛んに放映されていました。コーンパイプをくわえたサングラス姿はとても印象的でした。どうやら、アメリカが日本を占領することを印象付けるための演出だったようです。
私は、このマッカーサーが日本の地を踏む映像や写真を見るたびに思うことがあります。

マッカーサーは敗戦後の日本を統治する進駐軍の最高司令官ですが、敗戦後の日本の地を踏んだ最初のアメリカ人はマッカーサーではありません。司令官が訪れる環境を整える先遣隊がいたはずです。つまり、安全を確認して現地の状況を把握するための部隊です。

日本がポツダム宣言を受諾した(負けを認めた)のが8月14日、それを国民に知らせた玉音放送が8月15日、マッカーサーが厚木に到着したのが8月30日です。実は、その2日前(8月28日)に、先遣隊として約150人が45機の輸送機で厚木に降り立ちました。
彼らは、どんな思いで日本に来たのでしょうか?

負けを認めたとは言え、日本国内にはまだかなりの規模の兵力がありました。中には政府の決定に納得できない者もいたはずです。もし、そういった不平不満を持つ者たちが反乱を起こしたら、生きて祖国に帰れないかも知れません。先遣隊の兵士たちは、どんな気持ちで日本に来たのでしょうか。また、先遣隊の隊長のプレッシャー(任務の重要性、責任の重さ)はかなりのものだったに違いありません。彼は、どんな気持ちで部隊を指揮していたのでしょうか。
彼らが任務に向かう原動力は何だったのでしょうか?
祖国への忠誠心? 使命感? 勝利者としての喜び? 軍人だから・命令だから?

歴史として語られるのは、ほとんどが王様や司令官など、いわゆる “偉い人” です。しかし、偉い人の偉業の影には、歴史に残らない普通の人々や一兵士の働きがあるのです。「英雄の影に兵士あり」です。私は、歴史を見るとき、そのような影にいた人たちが何を考えて動いていたのかに思いを巡らせます。例えば、
 ・「将軍アイク」のアイゼンハワーよりも、「コンバット」のサンダース軍曹の方が好きです。
 ・明智光秀の謀反や小早川秀秋の裏切りの時、反乱軍の兵士たちは何を思ったのでしょうか?
 ・縄文式土器を作っている人は何を考えながら模様を描いていたのか?
 ・ピラミッドの石を積み上げている人の原動力は?
 ・太平洋戦争末期の特攻隊員たちが家族に宛てた手紙には胸が痛みます。

英雄と一兵士の話はビジネスの世界でも同じです。大企業の業績の影には、実際に動いている実務者がいます。会社がどんなに素晴らしい業績を上げても、彼らがニュースで取り上げられることはありません。社史にも乗りません。歴史に残りません。「業績の影に社員あり」です。

兵士や社員(実務者)が何を思って動いているのかを知る事はとても大切です。モチベーションの把握です。モチベーションは成果に直結します。また、目の前の成果だけでなく成長(つまり、未来の成果)にも影響します。

《経営者/管理者/実務者》は、軍隊の《司令官/隊長/兵士》と同じです。兵士がいなければ戦いに勝つことができないのと同じように、実務を行う者がいなければ経営は成り立ちません。

経営者の役割は『戦略』です。管理者の役割は『戦術』です。実務者の役割は『戦闘』です。
 以下、拙著『ソフトウェアの品質管理 -専門家が教えない大切なこと- 』から引用して説明します。

【戦略】大局的・長期的な視点での兵力の運用(司令官の役割)
     例:交通の要所を抑える、補給ルートを確保する など
     ビジネスでは、経営方針や中・長期計画です。

【戦術】戦いのやり方(隊長の役割)
     例:挟撃、伏兵、陣形 など
     ビジネスでは、手法、手順、プロセスです。

【戦闘】実際の戦い(個々の兵士の能力が重要 … 訓練が重要)
     ビジネスでは、業務遂行です。個人のスキルが重要です。

組織内の人々には階級毎にそれぞれ役割があります。自分の立場(階級)に応じた役割を果たすことが重要です。しかし、他の人の立場を理解せずに自分の都合だけで文句を言っていると、組織の秩序を乱します。組織の乱れは敗北に直結します。

ビジネスも戦いです。仕事においては、自分の立場や役割を認識するとともに、立場や役割が違う人にも寄りそうことを心掛けましょう。

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