賞罰について考える -受ける立場で-

「賞・罰」とは、「褒められること・叱られること」「ご褒美・お仕置き」、いわゆる「アメとムチ」です。品質とは無関係だと思うかも知れませんが、使い方によっては従業員のモチベーションや組織の統制に影響を及ぼし、それらは品質に直結するので当コラムでも取り上げます。
 賞罰は会社側がある意図をもって行うことですが、必ずしも社員の希望に合致しているとは限りません。与える側(経営者や人事部門)としての注意点(タイミング・納得感・公平感など)はいろいろな所でよく言われていますが、今回は賞罰を受ける立場としての考え方についてお話します。

 賞罰は、会社への貢献に対する “ご褒美” と、足を引っ張ったことに対する “お仕置き” であり、その中身は【金銭】【地位】【名誉】に分けられます。細かく分ければ他にもいろいろありますが、結果的にはこの3つに帰結すると考えられます。その主なものをまとめたものが下の表です。

 賞罰を受ける側としては、与える側の意図を正しく理解することに努めましょう。何を期待されているのか・何を咎められているのかを知ることが大切です。その後どう行動するかは別の問題ですが、最初から認識に違いがあればずっと分かり合えないままです。そしてそれはお互いに不幸なことです。意図が分からなければ確認する必要があり、その意図に納得できなければ話し合うことが必要です。その際、注意が必要なことを以下に3つ述べます。

1.能力に対する評価か、結果に対する評価か
 賞罰には「能力に対するもの」と「結果に対するもの」があります。力をつけたことに対するご褒美(力を落としたことに対するお仕置き)と、実績を上げたことに対するご褒美(実績を上げなかったことに対するお仕置き)です。
 能力に対する賞罰には、その後の結果に対する期待が込められています。一方、結果に対する賞罰は、過去に対するものであり未来とは関係ありません。将来の評価を保証するものではないのです。このことを認識しておいてください。

2.ボーナス(賞与)の意図
 ボーナスとは、本来「会社が思いがけず手に入れた利益を社員に分配する」という性質のものです。日本では労働報酬の一部とされていますが、本来の意図は覚えておきましょう。
 ボーナスの原資(社員全員のボーナス総額)は会社の業績によって決まります。それを社員に分配するときは、会社への貢献度に応じて額が変わるのが普通です。つまり、個人のボーナス額は、会社の業績とその人の貢献度によって決まるのです。ですので、会社の業績とボーナス額が分かれば、自分への評価がある程度分かります。例えば、
・会社の業績が良いのに自分のボーナスは低い(下がった)場合:自分の功績が認められていない
・会社の業績は悪いのに自分のボーナスは高い(上がった)場合:自分の功績が認められている
単に「ボーナスが少ない」と愚痴るのではなく、会社と自分が置かれた状況について考えてみましょう。

3.栄転と左遷
 実際の賞罰や辞令では使われませんが、転勤の際によく「栄転」と言って祝福したり、「左遷」と陰口を言ったりします。よくある使われ方は、昇格をともなう転勤が “栄転” 、降格をともなうそれが “左遷” です。
 私は「スカッとする」系の動画が好きでときどき見ますが、その中に左遷の話がよく出てきます。多くは『ハメられて僻地に左遷されたが大逆転で本社へ戻る』とか『いつも自分に意地悪をする上司の悪事がばれて地方へ左遷される』という内容ですが、私はそれを見ていつも違和感を感じています。それは「なぜ左遷先が地方なのか。そこで働いている人たちはどう思うか」ということです。今自分が働いている職場が左遷の落ち着き先だと分かったらやる気を失いますよね。
 世の中には、本社への転勤を栄転、地方への転勤を左遷 とイメージしている人がいますが、それは間違いです。会社はそんなことはしません。本社には本社の役割が、地方には地方の役割があり、それと社員の能力と期待を勘案して転勤を命じるのです。ですので、その事業所の役割と自分への期待をよく認識して仕事に取り組むことが重要です。例えば、地方支社は組織規模が小さいため一人の社員が様々な業務を担うことが多いでしょうが、それを「大きな仕事を任せてもらえない」と愚痴るのか、「いろいろな業務を経験できるチャンス」ととらえるのかで、その後の取り組み方や会社からの評価が変わります。


『銀河英雄伝説』(田中芳樹 原作)第50話に、失敗した部下を処断しようとする主君を参謀役の秘書官が諌めるシーンがあります。処罰を下す際の良い例として紹介しますが、処罰を受ける側として「会社はこういうことを考えて処罰している」と思ってください。

「私はそれには反対でございます。理由は3つございます。一つは、レンネンカンプ提督のみを更迭してシュタインメッツ提督を留任させれば、更迭された方に不公平感が残りましょう。二つは、すでにゾンバルト少将を粛清して一罰百戒をなしたのに、ここでさらに厳罰を下しては、人心を委縮させることになります。もう一つは、イゼルローン要塞の司令官職が、左遷される者の落ち着き先として軽視される結果になりかねません」
「つまり、けん責で済ませよということか?」
「ご明察、おそれいります」

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