要求の階層・仕事の依頼レベル

私は小心者なので、人に話しかけたり依頼したりする時にかなり気を使います。”気を使う” とは主に次の3つです。
①相手が忙しそうか(迷惑でないか)
②曖昧な言い方になっていないか(誤解されないか)
③相手のレベルに合った言い方になっているか

それと同じように、他の人から何かを依頼された時には、次の3つを心がけています。
①忙しい時、今は無理であることを伝えるとともに、いつなら出来るかを伝える。
②正しく理解した(誤解がない)ことを確認するため、相手が言った事を自分の言葉にして復唱する。
③要求の階層(依頼レベル)に合った対応をする。
今回は、この『要求の階層』についてお話します。

お客様からの依頼は「○○が欲しい」「○○をやってほしい」という単純明快なものだと思っている人もいるかも知れませんが、実はお客様の依頼にはいろいろなレベルがあります。お客様からの要望は、その人の立場によって様々なレベルがあるのです。

例えば、
・経営層:「経営を効率化したい」「経理業務を簡素化したい」 … 経営課題レベルの要望
・経理部門:「システムを導入したい」「ソフトを購入したい」 … 戦略レベルの要望
・システム部門:「Webシステムにしたい」「○○機能が欲しい」… 機能レベルの要望
・オペレーター:「こういう運用にしたい」「こう動いてほしい」… 操作レベルの要望

これらの要望は、「会社を良くしたい・仕事を楽にしたい」という本質的なことは同じですが、要望のレベルはそれぞれ全く違っており、検討する内容・やり方・対応できる人がそれぞれ異なります。にもかかわらず、「依頼のレベルはみんな同じだろう」と勘違いして取り組むと大変なことになります。
実際、IT業界におけるシステム開発の失敗原因の多くは、要望の内容に関するお客様と開発者の認識の齟齬にあります。お客様の経営層が上位レベルの要望を示しているのに対して、請け負う側の開発者が下位レベルのことにしか頭が回らないことが多いのです。

ですので、依頼された時は「どういう立場の人による、どのレベルの要望なのか」を把握して、適切に対応しなければなりません。自分に出来ないことであれば出来る人に替わるか紹介する必要があります。例えば、①経営課題レベルの要望であれば経営コンサルが得意な人、②戦略レベルの要望であればソリューション提案が得意な人、③機能レベルの要望であればプログラミングが得意な人です。
IT業界では一般的に、①は営業、②はSE(システムエンジニア)、③はプログラマー が、その役割を担います。要望と対応者のレベルが違うとトラブルの原因になります。経営課題レベルの要望をプログラマーが解決することは出来ないのです。

過去記事『所変われば品変わる・常識も変わる』で、クラウドソーシングでのEXCELの仕事には3種類あると書きましたが、それらも先に述べたことと同様に要望のレベルが異なります。
 ①シートに入力してください … 作業の依頼(入力の依頼)
 ②シートを作ってください  … 作成の依頼(納品の依頼:作り方は任せる)
 ③マクロを作ってください  … 作成の依頼(納品の依頼:作り方を指示する)

単に「EXCELのお仕事」という文句に惑わされずに、どういうレベルの依頼なのかを理解したうえで、自分のスキルにマッチするかをよく考えてから仕事を受けるか決めましょう。

「要望のレベルを把握して適切に対応する」ことはとても重要なことですが、お客様によってはその実現の際に苦労することがあります。それには2つのパターンがあります。

1.無理難題を言ってくる。技術的に困難なことを求める。
機能レベルのことがよく分からず、頼めば何でも出来ると思っている人に多く見られます。その場合、できない理由を粘り強く説明すると共に、代替え案を提示することが必要です。

2.上位レベルの要望に対して、細かいやり方まで指示してくる。
例えば、先ほどのEXCELで言えば、セル内の計算式や関数だけで実現できるのに「マクロを作って欲しい」と依頼してくる人がいます。なまじ知識があると、いろいろと口出ししたくなるのでしょうが、実はこれが開発者を悩ませます。「契約なのだからサッサと言われた通りに作って終わらせる」と考える人もいるでしょうが、それで本当にお客様のためになるのか考えることも必要ではないでしょうか? お客様のことを考えた結果、敢えてお客様が言うことに異を唱えて「こうした方が良いですよ」と提案することも必要だと思います。
どうするかはお客様や開発者の性格にもよりますが、どちらにしてもお客様との信頼関係を確立しておくことが大切です。

特に経営層の要求は、上位レベルの要望であるために内容が曖昧なことがあります。その場合は、その領域の専門家(コンサルなど)に任せるか、より下位のレベルの要求に落とし込む必要があります。
場合によっては、お客様側の体制として、経営層の指示を下位レベルの要求に落としてくれる組織や人を設けてもらうことが必要かも知れません。

以上のように、仕事を受ける際にお客様の要望を正しく聞くことは非常に難しいことです。これが出来ればベテランと言っていいでしょう。慣れないうちは、周りの人の力を借りて組織的に取り組むことが必要です。

仕事を依頼する側も、《指示通りにやって欲しいこと》と《作業する側に任せること》の区分けを明確にして依頼するように心がけましょう。

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