「御社」と「貴社」の使い分けに異論あり

相手の会社を示す言葉として、一般的に「御社」と「貴社」の2つを用います。同様に、
こちらの会社を示す言葉には「弊社」と「当社」の2つがあります。
これらの使い分けについて、ほとんどのサイトが以下のように解説し、それがビジネスマナーであるかのように説いています。
相手の会社を示す言葉
 御社(おんしゃ)… 会話で用いる(話し言葉)
 貴社(きしゃ) … 文書で用いる(書き言葉)
こちらの会社を示す言葉
 弊社 (へいしゃ)… 立場が上の相手に用いる
 当社 (とうしゃ)… 立場が対等又は下の相手に用いる

しかし、この使い分けはとても不自然です。今回は、これが不自然な理由と、私がやっている使い分け方を紹介します。

まず、それぞれの言葉の意味を確認しておきます。
御社:「御」はそれに続く用語を丁寧に言う言葉です。御食事、御馳走、御味噌汁など。
    “社” の前に付けることで、相手の会社を敬う気持ちを表します。
貴社:「貴」はそれに続く用語が素晴らしいことを示す言葉です。貴金属、貴族など。
    “社” の前に付けることで、相手の会社を敬う気持ちを表します。
    ※ つまり、御社と貴社は共に相手の会社を敬う言い方であり、同じ意味です。
弊社:「弊」は “粗末な” や “ボロボロ” という意味です。弊害、疲弊、語弊など。
    こちらの会社を「粗末な会社」と呼ぶことで、相手の会社を敬う気持ちを表します。
当社:こちらの会社を示す普通の言い方です。

次に、私が多くのサイトの説明を不自然に感じる理由を述べます。

「御社、貴社、弊社、当社」を、解説サイトの説明に従って整理したものが次の表です。

この表を見て分かる通り、《相手の会社のこと》と《こちらの会社のこと》とで、同じ言い方を用いる領域の分け方が違っています(縦方向 vs. 横方向)。整理したり分析したりした時、同じ表の中に見え方が違うものが混在していると美しくなく不自然に感じます。そのように “不自然” や “美しくない” とき、検証してみると論理的におかしいことがよくあります。少なくとも分かりにくいのは間違いないでしょう。

また、会社や人の上下関係を意図する使い方は避けるべきだと思います。「発注側ー受注側」や「雇用主ー労働者」は上下の関係ではないからです。

このような理由から、私は「御社、貴社、弊社、当社」を次のように使い分けています。

私の使い方の特徴は次の2つです。
(1) 原則、会話と文書で使い方を変えない
  ただし、契約関係にない相手と話すときには(親しみの気持ちを込めて)相手の社名を用いる。
(2) 上下関係ではなく、“契約相手” か “そうでない相手” かで使い方を変える
 ①契約相手(または契約予定)の場合:御社(相手の会社)、弊社(こちらの会社)
 ②そうでない(契約相手でない)場合:貴社(相手の会社)、当社(こちらの会社)
※契約相手とは売買契約などの相手、契約関係にない相手とは研究会や交流会などで知り合った会社です。
 『御社、弊社』は契約相手に用いるビジネス用語のようなものだと思っています。

この使い分けの方が、シンプルで自然で分かりやすいと思いますがいかがでしょうか?
ただし、世の中には解説サイトの説明を鵜呑みにして頑なに「これがビジネスマナーだ」を信じている人がいるので、私のやり方を取り入れる際には注意してください。

ちなみに、「御社」は30年くらい前から使われ出した比較的新しい言い方で、その前は「貴社」が普通でした。一部の人たちの間で使われていた流行語が、いつの間にかビジネスマナーとして定着したようです。マナーというのは、実は「流行りもの」を起源とするものが多く、私たちがイメージする道徳的なものとはズレているものも多くあります。例えば、サンキューハザードもその一つ。これも二十年くらい前から流行っていますが、私はやりません。理由は、スイッチ操作のために前方の注意を一瞬逸らすので危険だからです。もしかすると「運転マナーを知らない失礼なやつ」と思われているかも知れませんね。でも、事故を起こすよりはマシだと思っています。

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