先日、何気にテレビをつけていたら、どこかの局のニュース番組で「させていただきます症候群」という話題をやっていました。初めて聞く言葉だったので興味を引かれて見たところ、日頃私が感じていた社会現象だったので、今回それを取り上げます。
その社会現象とは『敬語の過剰な使い方』です。つまり、”丁寧過ぎる言い方” です。
社会生活において敬語は必要不可欠なものですが、行き過ぎた敬語は不自然であり、逆に失礼になり、時に不信感を抱かせます。
ひと頃は「最近の若者は敬語を知らない。困った世の中になったものだ..」と嘆く声をよく耳にしましたが、最近は行き過ぎた敬語の方が気になってます。特に、SNSやテレビ番組のインタビューなどで頻繁に耳にするようになりました。さらに最近ではビジネスにおいても時々見かけるようになり、「困った世の中になったものだ..」と嘆いています。
「させていただきます」は、本来、丁寧で相手への敬意を示す表現ですが、最近は何でもかんでも「させていただきます」を付ける風潮があります。これが【させていただきます症候群】です。
例えば、最近ある企業のプロモーションビデオを見たのですが、社員が「カウンセリングをさせていただいて~ 施術に入らせていただいて~」と言っているシーンがあり、とても不自然に感じました。
他にも、「メールを送らせていただきます」や「資料を添付させていただきます」という言い方もよく目にします。これらは「メールを送ります」や「資料を添付します」で十分であり、過剰な使い方と言えます。
このように何にでも「させていただきます」を付ける風潮は、次のような思考が影響しているものと思われます。
◆「~します」ではぶっきらぼう。物足りない。失礼かも知れない。とりあえず「いただきます」と謙遜しておけば丁寧だろう。
◆「~します」と書く(言う)と自分の責任になりそう。「あなたが許してくれたからやる」というニュアンスを込めて責任を回避したい。
「嫌われたくない」「自分の責任にされたくない」という恐怖心や、人間関係が希薄になった社会が、このような風潮を生んでいるのかも知れません。
この風潮に対して、2007年、文化庁が「させていただく」に関する指針を公表しました。
その内容は、『次の2つの条件を満たすときのみ適切』というものです。
①相手または第三者の許可を得て行う行為であること
(相手の場や領域に立ち入る許可のことです。例えば、写真を撮らせていただく)
②その行為によって自分が恩恵を受けること
(自分に利益やメリットがある場合です。)
つまり、その行為を行うのに許可が必要なかったり、自分にメリットがない場合に「させていただきます」を使うことは不適切なのです。例えば、「メールを送る」「資料を添付する」のような単なる報告や連絡などです。
「させていただきます」は「 “させて” プラス “いただきます” 」ですが、「させて」は相手が許可することであり、「いただく」はこちらが恩恵を受けることです。したがって、許可されていて、且つ、こちらにメリットがある場合に「させていただく」を用いるのです。
実は、文化庁のこの指針に対して私は少々違和感を感じています。
指針によると、「させていただきます」を使うのは “相手の許可” と “こちらの利益” を伴う場合です。ということは、そこには必ず《感謝》の気持ちがあるはずです。
しかし、私も時々「させていただきます」を使いますが、その時《感謝》の気持ちはあまりありません。むしろ《謝罪》の気持ちがある時に使います。厳密には「させていただきました」というような過去の行為についてよく用います。
具体的には、突然メールを送る際に、文頭に次のような表現を加えます。
「緊急の事情が発生したため、メールをお送りさせていただきます」
この文言には、次の意図を含めています。
「緊急の事情が発生したため、ご迷惑とは思いますが、このメールで急ぎご連絡いたします。突然の無礼をお許しください」
つまり、文化庁の指針で示す「相手の許可」について、私は許可されたことに対する「感謝」よりも、無許可で行ったことに対する「謝罪」と「事後許可のお願い」のニュアンスを込めて「させていただきます」を用いることが多いのです。
「させていただきます」という未来~現在を表す表現と、「させていただきました」という過去を表す表現では、少しニュアンスが違うかも知れません。私が普段用いている言い方を表にまとめてみましたので、皆さんが普段どういう場面でどんな意図で「させていただきます」を用いているか考えてみてください。

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話を冒頭に戻して、日頃私が感じていた『敬語の過剰な使い方』についてもう少し述べます。
よくメールや文書で他者(社内外)に頼み事をする際、「よろしくお願いします」と「よろしくお願いいたします」のどちらを用いるかで悩みます。

実は、「お願い」と「いたします」はどちらも謙譲語なので、「お願いいたします」は二重敬語であり本来間違っている使い方です。しかし、「すでに定着しているため使用可(実務上は問題なし)」というのが文化庁の見解です。
「お願いします」は少し軽く聞こえるかも知れませんが、「お願いいたします」は形式的で堅苦しさを感じます。使い分け方に明確な決まりはありませんが、私は相手をよく見て使い分けるようにしています。つまり、上下関係や形式を重んじる人には「お願いいたします」、少し仲良くなってフレンドリーな関係なら「お願いします」にします。使い方に悩んでいる方は参考にしてください。判断に迷う場合は「お願いいたします」にするのが無難でしょう。ただし、「いたします症候群」や「いたします中毒* 」にならないように気をつけてください。
中毒*:記事『定義中毒に気をつけよう!』参照
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自分がある行動をすることを示す場合に「~します」「~いたします」「~させていただきます」という3つの言い方がありますが、いずれにしても大切なのは相手に対する敬意や誠意とリスペクトです。その気持ちがないままでは、どんなに丁寧な言葉を用いても無意味です。
慇懃無礼(いんぎんぶれい)という言葉をご存じですか?
(以下、Copilotで得た情報を元に書きます)
慇懃無礼とは、
・表面は丁寧・礼儀正しいのに、内実は相手を軽んじたり攻撃したりしている態度
・丁寧さを“武器”として使い、相手に心理的圧力や不快感を与えるコミュニケーション行動
例えば、次の様な言い方が慇懃無礼の典型的な例です。(そう受け止められやすい)
「そうですか、ご存じなかったのですね」
「お気になさらず。理解されなくても結構ですので」
「そのようなご意見もあるのですね」
どれも、無意識に使ってしまいそうなフレーズですね。しかし、相手によってはグサッときて慇懃無礼と受け止められることがあるので注意しましょう。

「慇懃無礼」も「させていただきます症候群」も、どちらも表面上は丁寧ですが内実は失礼な行動です。気が付かないうちに相手を不快にさせているかも知れません。気をつけましょう。
とは言え、日本語を完璧に正しく使うことはとても難しいことです。些細な間違いや誤解で信頼関係が崩れてしまわないように、日頃からコミュニケーションを取ることを心掛けて、少しのことではビクともしない人間関係を作っておくことも大切です。
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