アンケート調査で気をつけること

 現代は様々なアンケートで溢れています。顧客満足度調査、従業員満足度調査、市場調査、世論調査などなど。皆さんも少なからず回答した経験があると思います。中には憤慨するようなアンケートも時々ありますね。今回は、私の経験から、アンケートを実施する立場として気をつけなければならないことや、効果的なアンケートを実施するヒントについて述べます。

 アンケートを実施する際の流れは、おおむね次の通りです。

 この時、まず気をつけなければならないことは、個々のステップをただ順番にこなしていくのではなく、この流れ全体を頭に入れて進めることです。なぜかと言うと、各ステップはそれぞれ単独で存在しているのではなく、前後のステップと互いに密接に関係しているため、後のステップのことまで考えて検討していないと、後戻りが発生する可能性が高いからです。どんな作業にも後戻りの可能性はありますが、アンケートの場合は特に後戻りの危険が大きいことを意識しておいてください。
 以下、個々のステップにおける注意点を述べます。

.目的 : 何のために調査するのか明確にする

 すべてのステップに関わる根本的なステップです。特に、[5. 活用] はダイレクトに影響を受けます。調査の目的がはっきりしていないと、「アンケートを取っただけで何にも生かせなかった」ということになりかねません。

2.準備 :

    ①誰に・どんな方法で尋ねるか決める
     「誰に」は、[4. 分析] での層別分析に直結します。また、[3. 実施] の依頼先にも関わります。
     「方法」は、[3. 実施] の回収や、[4. 分析] の集計に関わります。

    ②アンケートフォームを作る
     [3. 実施] における回答のしやすさ、 [4. 分析] における分析の有効性に直結します。

     回答方法には、項目選択式(単、複)、レベル選択式、記述式などがありますが、選択式の場合は特に注意しましょう。回答者が「回答したい選択肢がない」「どちらの選択肢にも当てはまる」などと混乱しないように、選択肢の設定には十分気をつける必要があります。
     特に、二者択一の場合は注意が必要です。本当に二者択一なのかよく考えてください。例えば、
    事例1:「A案かB案か」の場合、選択肢は [A案がいい] [B案がいい] の2つだけではありません。[どちらでもいい] [どちらもダメ] もあります。


    事例2:提案に対する賛否を問う場合、単純に [賛成] [反対] を問うのは危険です。反対票には正反対の理由が含まれていることがあるからです。実際、過去に国会でこのようなことが起きたことがあります。与党が提出した規制法案に対して、野党が「緩過ぎる」という理由で反対しましたが、一部の与党議員が「厳し過ぎる」という理由で反対に回り、結果反対が過半数を超えて廃案になりました。普通、反対する際には代案を提示して少しでも前に進もうとするものでが、このようなケースでは代案を作ることが出来ません。なぜなら、正反対の理由で反対している人の集まりだからです。その結果、少しも前に進むことができません。したがって、[賛成] [反対] を問う場合はその理由まで考慮にいれて選択肢を設定する必要があります。アンケートの事例ではないですが、二者択一の注意事項として覚えておいてください。

     記述式回答は、定性情報(言語情報)なので分析に手間が掛かったり、回答する側にとっても面倒なので敬遠されがちです。しかし、選択肢に縛られない本当の意見が得られたり、調査する側が想定してしていなかった貴重な意見を得ることができます。定量情報と併用しながら適度に活用しましょう。

    3.実施

    ①協力を依頼する
     アンケートを依頼する際には、目的と回答時間(目安)を示すことが必要です。特に、アンケートの目的を伝えることは重要です。アンケートの目的と聞くと “調査する側の目的” を思い浮かべるかも知れませんが、重要なのは “回答する側にとってのメリット” です。謝礼などのアンケート特典のことではありません。「回答内容によって、調査した側が変わる。それによって回答者に恩恵がある」ことを示すのです。例えば、市場調査アンケートの場合、「店の売上を増やすため」ではなく、「品揃えを改善してお客様に喜んでいただくため」と伝えることが重要です。

    ②回答を回収する
     アンケートの回収方法は [2. 準備] で決めた “方法” で決まります。ここで気にすべきことは回収のタイミングです。「最終日にだけ回収する/決まった時間に回収する/ある程度溜まったら回収する」や「取りにいく/送ってもらう/ネットで自動で」など、 [2. 準備] においてあらかじめ決めておきましょう。

    4.分析

    ①集計する
     実は、アンケート結果の集計はかなり労力を要します。例えば、手書きのアンケートの束を分析システムや表計算ソフトなどに入力することを想像してみてください。実際に紙の束を目にするとゾッとします。さらに、データ入力した後も厄介な作業があります。それは、有効なデータと無効なデータの振り分け、つまり「データの精査」です。回答の中には分析に適さないものも多く含まれています(例えば、数値項目の中に文字情報が入っているなど)。そういうものを除かないと②の分析が適切に行えません。分析する前には、データの精査が必須なのです。しかも、どういう回答があるかは実施してみないと分かりません。そのため、アンケートのスケジュールを立てる際には、分析ステップ、特に集計作業の時間を多めに確保しておくことをお勧めします。

    ②分析する
     定量データについては、多変量解析を勉強してください。書籍やWebサイトがたくさんあります。また、分析用ソフトを利用するのもよいでしょう。ただし、それらは機能的にかなり重く、使い方も面倒で、高額です。もっと簡単に手軽に行いたいなら、表計算ソフトでもある程度のことはできます。その際にお勧めするのは、『2軸で考える』ことです。例えば、積上げグラフ、散布図(相関グラフ)、ゾーン分析など。それによって、情報が細分化されて傾向が見えやすくなります。例えば、「男性は../女性は..」や「20台は../30台は../40台は..」と短絡的に考えるのではなく、「20台の女性は..」や「40台の男性は..」などと細かく見るのです。そのためには、[1.目的] で何をしたいのかをしっかり見据えて分析内容を考えるとともに、それに必要なデータを [2. 準備] で用意することが必要です。

     分析していると「こういう分析もしたい」と新たなアイディアが出て来ます。あれこれ試してみましょう。やがて「こういう情報も採りたい」と思うことも出てきます。それらは、次回のアンケートの課題として記録しておきましょう。

     記述式の回答(言葉情報)については、『QC7つ道具』や『新QC7つ道具』といった手法もありますが、それ以前に大切なこととして、《寄せられた意見に真摯に向き合う》ことを心掛けましょう。文句を言われたり怒られたりするとムッとして反発したくなりますが、その気持ちを抑えて、回答の真意をつかみ、こちらに非があれば素直に正し、誤解があれば冷静に解きましょう。また、誤解がある場合は、誤解を解くだけでなく、「なぜ誤解が生じたのか」を考えることも大切です。もしかすると、説明内容や文書の書き方に問題があるのかも知れません。

    5.活用 : 分析に基づいて、目的に向けて行動する

     アンケートの回答を集めて分析して、傾向が分かっただけでは何も変わりません。例えば、従業員満足度調査で従業員の不満が分かっても、何も改善しなければ不満が募るばかりです。分析したら直ぐに行動しましょう。

     この時に重要なのが [1. 目的] です。目的を果たすためにアンケートを実施したのですから、分析したら目的に向けて行動しましょう。 “行動” とは “変わる” ことです。組織が変われば社会に影響を及ぼします。アンケートの回答者も社会の一員ですから、組織が行動を起こせば回答者にも影響を及ぼします。これが [3. 実施] の協力依頼において示したことの実証であり、回答者へのフィードバックです。

     社会を介したフィードバックの前に、できれば回答者へ直接フィードバックすることも考えましょう。分析結果と行動計画を回答者に直接示して、改めて協力への感謝を伝えるのです。この時、記述式回答に書かれた意見や提案に対する回答も一緒に示せば、より信頼を得ることができるでしょう。


       最後に、過去に私が実施したアンケートの一つを事例として載せます。
       これは、会社のQMS(品質マネジメントシステム)が社員にどう受け止められているかを調べ、QMSの改善につなげるためのアンケートです。ISO9001についてのアンケートですが、従業員満足度調査という側面もあります。

       QMS内の主な項目について、[負担] と [効果] という異なる2つの軸で社員の認識を調べています。分析では、2軸でデータをプロットすることで、優先して改善すべき項目を明らかにするとともに、前回の調査からの変化を見ることで施策の有効性を確認しています。理想は『小さな負担で大きな効果』(グラフの左上)であり、逆に『負担が大きく効果が小さい』項目(グラフの右下)が優先改善課題になります。
       また、定量データとは別に自由意見を記述する項目も設け、社員の生々しい意見も集めています。

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