効果的な目標設定

前回の記事『方針と計画と目標の関係、2つの「目標」』において、「目標とは、行動が成功したか・失敗したかを決める判断指標」と述べましたが、それと同時に《より高い成功を目指すための原動力》でもあります。良い目標は、それに向かって頑張ろうという気持ちを生むからです。逆に、目標の設定を誤ると成功が難しくなります。今回は、頑張ろうという気持ちにさせる目標(逆に頑張る気持ちを削いでしまう目標)について述べます。

目次
SMARTの法則
目標の要件
ISO9001における目標

SMARTの法則

「効果的な目標とは」で検索すると、目標の設定方法・管理方法・活用方法など様々な手法が見つかります。それらの中で有名なものが【SMARTの法則】です。SMARTの法則は、効果的な目標を設定するためのフレームワークであり、成功する目標の要件(こうあるべきだ)を表す単語の頭文字を取ったものです。
(Specific)   :具体的である(曖昧だと、計画を立てられない)
(Measurable):測定可能である(測れないと、成否を判断できない)
(Achievable) :達成可能である(無理な目標だと、やる気が起きない)
(Relevant)  :関連事項と矛盾しない(矛盾があると、信用できない)
(Time-bound):期限が明確である(期限がないと、本気にならない)

どれも、納得できるものばかりですね。しかし、よく考えると少し違和感を感じます。「SMART」というちょっとカッコイイ言葉にするために無理した語呂合わせのように感じるのです。その違和感とは主に次の2つです。

違和感1:SpecificとMeasurableは結局同じこと
具体的でないのに測定可能なものや、具体的なのに測定できないものが私にはイメージできません。具体的であれば測定可能であり、測定可能であれば具体的であると言えるのではないでしょうか。ですので、「S」と「M」は本来一つであり分ける必要がないように感じるのです。

違和感2:Time-boundは目標そのもの
目標には、性質的なもの(ここまでやる)と時間的なもの(ここまでにやる)の2つがあります。Time-boundとは時間的な範囲のことであり “期限” のことだと思っています。これは「ここまでにやる」という意味であり、時間的な目標そのものです。ですので、成功する目標の要件ではないと考えます。

目標の要件

以上の理由から、私は “成功する目標の要件(こうあるべきだ)” を次のように考えています。

目標の要件1:「達成 or 未達成」が明確
目標とは、行動が成功したか・失敗したかを決める判断指標なので、”効果的な目標” は「成功か(目標を達成したか)、失敗か(未達成か)」を明確に判断できるものでなければなりません。具体的で測定可能であるということは、判断出来るということです。

目標の要件2:少し頑張れば達成できる
どんなに頑張っても無理と分かっている目標は、それに向かって頑張ることができません。これは、SMARTの法則のA(Achievable)と同じです。また、頑張らなくても簡単に達成できる目標は、達成できても成長にはつながりません。少し背伸びをして負荷をかけるくらいが成長や達成感につながります。達成感は次へのモチベーションになります。

目標の要件3:他と矛盾しない(整合している)
ここで「他」とは、例えば、方針や上位目標、関連作業、現在の状況、前提や制約条件などのことです。例えば、直属上司と上位上司が掲げる目標が違っていれば混乱します。他部門と足並みが揃っていないと動きが滞ります。現状を無視した目標には従えません。などなど、あらゆる面ですべての方針や目標が整合していることが重要です。
SMARTの法則のTime-bound(目標に期限を設ける)とは、性質的な目標と時間的な目標(又は時間的な制約)を整合させることだと思っています。

ISO9001における目標

ISO9000(JISQ9000)において【目標(objective)】は、「達成すべき結果」と定義されています。”達成すべき” なので、〈達成 or 未達成〉が明確である必要があります。

ISO9001において最も重要な目標が【品質目標(quality objective)】です。
品質目標の定義は「品質に関する目標」です。さらに “品質” の定義や付加されている注記等も考えると《定義中毒》に陥るので止めておきます。(記事『定義中毒に気をつけよう!』参照)
要は、ISO9001において品質目標がとても重要なものであるということは憶えておいてください。

ISO9001(JISQ9001)において、品質目標の要件は5.1項と6.2項に記述されています。以下、それらについて簡単に説明します。

5.1 リーダーシップ及びコミットメント
 5.1.1 一般
  トップマネジメントは、~しなければならない.
   b) ~品質目標を確立し、それらが組織の状況及び戦略的な方向性と両立する~

    … 目標の要件3(現在の状況との整合、組織の方針との整合)のことです。

6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定
 6.2.1 品質目標は、次の事項を満たさなければならない.

   a) 品質方針と整合している.      … 目標の要件3(方針との整合)
   b) 計測可能である.         目標の要件1
   c) 適用される要求事項を考慮に入れる.… 目標の要件3(要求との整合)

 6.2.2 品質目標を ~ 計画するとき、次の事項を決定しなければならない.
   b) 必要な資源        … 目標の要件3(制約との整合)
   d) 実施事項の完了時期    … 目標の要件3(時間的制約との整合)

お気づきかと思いますが、ISO9001の品質目標には先に述べた《目標の要件2》の “少し頑張れば達成できる” という要素がありません。さらに言えば、SMARTの法則のA(Achievable):すなわち「達成可能である」という要件がありません。そのため「品質目標は達成可能なものでなくてもいい」と感じるかも知れませんが、そうではありません。ISO9001では “決めたことを守る” ことが基本です。したがって、自分たちで決めた品質目標を守る(達成する)ことは当たり前のことなのです。

ISO9001では品質目標の難易度について触れていません。低レベルの目標ばかり掲げて簡単に達成し続けていても咎められることはありません。しかし、それでは組織は成長しません。「品質を高めたい」「組織を良くしたい」と本気で望むなら、ISO9001をただ守るだけでは不十分です。ISO9001が求めていることプラスアルファの取り組みが必要なのです。「ISO9001の認証は得たが品質が良くならない。ISO9001は役に立たない」と思っている組織は、ただISO9001を満たしているだけで、そのプラスアルファを考えていないことが多いのです。

組織を良くしたいなら、少し頑張れば達成できる程度にレベルを上げた目標を立てて、それを実現できるように品質マネジメントシステムを改善して徹底することが必要です。

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