“成長” とは文書力のことだけではありません。確かに書き続けていれば文書を作る力は向上しますが、議事録を作成する効果はそれだけではありません。
議事録を作り続けていると、作業や仕事や会社のことがよく見えるようになります。また、関係者の性格や作業スタイルが分かってきます。そして、”考える力” が身に付きます。ただし、ホームページに載っている議事録のフォーマットをそのまま使うだけでは大きな効果は期待できません。自分で考えて工夫することが大切です。
「議事録の書き方」で検索すると多くのサイトが見つかります。議事録を作成する目的や書くコツなどはそれらのサイトで勉強してください。ここでは、それらのサイトではあまり語られていないことを中心に、私が考える「議事録を作るうえで考えるべきこと」についてお話します。4つありますが、これらは互いに関連しているので総合的にイメージしてください。
目次
1.会話型か要約型か決定型か
2.会議の関係者と議事録の関係者
3.議事録は誰のために書くのか
4.書き方の問題か会議の問題か
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1.会話型か要約型か決定型か … 議事録の記述型
議事録は、会議の性質によって次の様な記述の型があります。
(1) 発言をそのまま記述する … 会話型
(2) 議論を要約して記述する … 要約型
(3) 議論の結論のみ記述する … 結論型
「桃太郎」に例えると、
会話型:物語りの丸写し
要約型:桃太郎誕生の経緯、猿鳥犬を家来にした経緯、鬼退治の様子、その後
結論型:鬼を退治した(財宝を手に入れた)
3種類のフォームがあるわけではありません。会話型と要約型の中間もあれば、要約型と結論型の中間もあるでしょう。会話と結論の間には様々な要約のレベル(記述の細かさ)があり、そのレベルは自由に変えられます。
議事録の要約のレベルは、その会議の性質によります。議事内容を事細かく記載した方がよい会議もあれば、結論だけ書けばよい会議もあるのです。
議事録の記述量は『会話重視 > 要約重視 > 結論重視』です。それに伴って読解時間も同じ関係です。しかし、量が多くて読むのに時間がかかる議事録は分かりにくいですね。また、結論のみの議事録は議論の内容が分からず信用できません。つまり、分かりやすさは『要約重視 > 会話重視,結論重視』です。議事録を作る際は、会議の性質を把握し、会話重視と結論重視のバランスを見極めて、要約のレベルを決めることが大切です。
要約とは、不要な部分を省くこと( “書かない” こと)です。
※ 何も省かずにすべてを記録するのであれば、文書ではなく録音データを議事録として配布するという手段もあり得る。
議事内容を要約する上で最も重要なことは「何を省くか」を考えることです。この時、最も気にしなければならないことは『反対意見』の扱いです。会議によっては、結論だけでなく反対意見も記録しておかなければならないこともあります。”出席者全員の総意” なのか、”賛否両論あって採決した結果” なのかを明確にしなければならない会議もあるのです。そして、その場合は反対意見も議事録に残す必要があります。そういう会議もあるということは憶えておいてください。
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2.会議の関係者と議事録の関係者
議事録には、会議の関係者として次の人たちの名前を記述します。
(1) 参加者 … 議論に参加した/していないに関わらず、その場にいた人。(参加した証拠)
(2) 欠席者 … 出席依頼を受けたが参加しなかった人。(キーパーソンが欠席していないか)
(3) 発言者 … 発言内容とセットで記載。(誰がどんな意見を出したか)
(4) 決定者 … 結論を決定した人。(結論の責任の所在)
このうち (1) は必須ですが、それ以外は会議の性質によります。
さらに、議事録は文書なので文書管理が必要です。そのため、議事録の関係者として次の人たちも明確にしておく必要があります。
(5) 議事録の作成者
人によって議事内容の解釈が違うことや、要約した人によって文書から伝わるイメージが違うことがあるので、誰が作成した議事録なのか明確にする必要があります。
(6) 議事録の承認者
人によって議事内容の解釈が違うことや、要約した人によって文書から伝わるイメージが違うことがあるので、作成した議事録は第三者(上司や議長など)によるチェックが必要です。
(7) 議事録の配布先
・参加者 … 会議の備忘録と、議事の認識合わせのため。また、次回の会議に必要な情報。
・欠席者 … 例えば定例会議の場合、次回の会議に必要な情報を伝えるため。
・その他の関係者 … 会議の関係者以外にも、議論の内容を知らせる必要がある場合もある。
※ 自分が受け取ったものと同じ文書が他の誰に配布されているかを知ることは、情報共有のうえで重要なことです。議事録も、誰に配布されているかが分かるようにしましょう。
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3.議事録は誰のために書くのか
(1) 参加した人のため
(2) 欠席した人のため
(3) その他の関係者のため
ここまでは、2.(7) と同じです。それ以外にも重要な人がいます。それは《自分自身》です。議事録は、自分のために書くものでもあるのです。理由は2つあります。一つは、本記事の冒頭で述べた “成長のため” です。もう一つは、議事結果の “印象操作” です。
“印象操作” は、過去記事「データにだまされるな(2) 印象操作」でも述べました。その記事ではデータによる印象操作を取り上げましたが、今回は文書の書き方による印象操作です。「印象操作」というより「印象誘導」と言った方がよいかも知れません。
上記の2.(4) (5) で述べたように、同じ議事内容であっても人によって解釈が異なる場合があります。同じ結論でも、「重大な決定だ」と感じる人がいれば「どうでもいい決定だ」と感じる人もいます。「十分に議論した」と感じている人もいれば「議論が足りない」と感じている人もいるのです。そして、同じ現象を書いた文書でも、書いた人や書き方によってそこから伝わるイメージはかなり違います。つまり、議事録の書き方によって、伝わるイメージを変えられるのです。例えば、何でもないことでも書き方次第で「重大なこと」という印象を与えることができます。逆も同様です。
議事録を書いている人も会議の参加者です。当然自分の意見を持っているはずです。会議の進行に不満があったり、自分の意に沿わない決定がなされた時、それに対する最後の抵抗の手段として議事録を用いることができます。例えば、重大な議題なのに十分に議論されていないと思った時に、議論が足りていないかのような印象を与えるように議事録を書くことができます。即効性のある抵抗策ではありませんが、そう感じている人がいる(少なくとも議事録作成者はそう感じている)ことは伝わります。さらに、その場にいなかった人(欠席者やその他の関係者)に、それが事実であったかのように思わせる(誘導する)ことができます。それはかなり効果のあること(自分のためになること)だと思います。
議事録を書く時は、出来るだけ主観を入れずに事実をそのまま書くのが原則です。しかし、要約の場合はある程度許されます。出来事の中の “どれを省くか” という判断は、主観がなければ出来ないからです。議事録にどこまで主観が許されるかは組織や状況によって異なりますが、使える手は使って構わないと思います。議事録の承認者(上述の2.(6))の反応を見ながら試してみてください。
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4.書き方の問題か会議の問題か
これは、議事録の作成というよりも、「議事録が分かりにくい時にどう考えるか」ということです。
自分が書いた議事録が分かりにくいと感じた時や、配布した人に「分かりにくい」と言われた時、どうしますか? 問題があった時は、その原因を探るのが定石です。議事録が分かりにくい時も、その原因を考えることは大切なことです。
議事録が分かりにくい原因として真っ先に思い当たることは自分の文書力ですね。議事録作成が苦手な人は、自分の文書力の無さを悲観している人が多いと思います。文書力には、大きく「構成力」と「要約力」があります。構成力とは、どう書くか(つまり “書く力” )です。要約力とは、不要な部分を省く力(つまり “書かない力” )です。これについては、多くのサイトで解説されているのでそちら参考にしてください。
実は、議事録が分かりにくい原因には、もう一つ非常に厄介なケースがあります。それは《会議自体が分かりにくい》場合です。何を議論しているのか分からない会議や、議論が発散してまとまりのない会議では、その結果を記録する議事録が分かりにくくなるのは当たり前です。
会議が分かりにくい場合は、議事録を分かりやすくすることよりも、分かりにくい会議だったことが伝わるような議事録を心掛けましょう。「何を議論しているのか分からない会議だった」「まとまりのない会議だった」ということが伝わるように書くのです。正面切って「会議が分かりにくかった」と書いてもいいですが、差支えがある場合には印象操作のテクニックを使うのも良いでしょう。
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文書の書き方による印象操作については、私自身も完全に会得しているわけではないので詳しく述べることはできません。経験にかなり依存するので、いろいろと工夫して経験を積んでください。
私の経験から気づいたことを一つ挙げると、助詞の使い方しだいで印象はかなり変わります。例えば、
「○○が出来ない vs. ○○は出来ない」「△△へ行く vs. △△へは行く」など。
いろいろチャレンジしてみてください。
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