文書管理において版管理はとても重要です。
版管理とはいわゆる「バージョン管理」のことですが、その中身は次の3つの要素から出来ています。
①文書の状態を知ること(いつの文書なのか分かる)… 確認
②状態の推移を記録すること … 履歴
③過去の状態に戻すこと … 復元、回復
この中でもっとも重要なものが②の「状態の推移を記録すること(履歴)」です。
なぜなら、変更の履歴がなければ、
・それがいつ時点の文書なのか分からない … ①が不能
・過去の状態が分からないので、戻せない … ③が不能
だからです。
しかし、②には “履歴” の捉え方によって幾つかの異なった考え方があります。「版管理」や「バージョン管理」で検索すると多くの解説サイトが見つかりますが、考え方の違いによって解説の内容が違っていることがあります。中には、複数の考え方が混在し、混乱しているサイトもあります。
その “履歴” の捉え方の違いとは、主に次の3つです。
(a) 変更内容の履歴
変更した部分(中身)の履歴です。一般的に、変更の前後を比較して表示します。
MS-WordやGoogleドキュメントの「変更管理」機能がそれです。
(b) 変更行為の履歴(利用者にはそう見える)
変更行為の記録です。中身の変化に加えて、どのような操作が行われたかを表示します。
MS-Wordの「変更管理」機能では、①の他に、変更・削除・挿入などの行為も分かります。
(c) 公開の履歴
文書をレビューし承認し、正式な手続きを経て公開・改訂・廃版した記録です。
多くのビジネスツールやグループウェアには、この機能が含まれています。
ISO9001が求める版管理がこれです。
(a),(b) の “版管理” は、文書作成時の管理であり、《文書の中身》の管理です。
(c) の “版管理” は、文書が完成して公開する際の管理であり、《文書公開》の管理です。
文書の版管理について議論したり検討したりする場合は、《文書の中身》のことなのか《文書公開》のことなのかを明確にしておく必要があります。
今はOAツールで文書作成するのが一般なので、《文書の中身》の版管理の検討はツールの運用ルールが中心になるでしょう。
一方《文書公開》は、プロセス管理(input,output)や組織統制(周知徹底)の範疇であり、用いるのは文書作成のOAツールではなく文書管理システムです。
《文書の中身》の管理と《文書公開》の管理は、概念が全く異なるので混乱しないように気をつけましょう。
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ISO9001の世界において文書管理の重要な視点は、『必要な時に、必要な情報が、必要な状態で利用できること』です。そして、ISO9001における版管理(上記の(c) )は、”必要な情報” を確実に手にするための手段の一つです。
前回の記事『その文書は最新版ですか?』において、「利用者が最新の文書を手にするために文書管理システムと運用ルールを総合的に考えて最適な文書管理の仕組みを作ることが重要」と述べましたが、運用ルールの一つとして文書本体に『改版履歴』を添付することをお勧めします。
改版履歴は、一般的に表紙の次ページまたは巻末に配置して、主に次の項目を記述します。
・版番号 … バージョンも含めて個々の文書を識別する情報
これにより文書公開の履歴を示します。
・発行日 … その版が公開された日付
・変更内容 … その版で変更された内容
記述の詳細度は、文書の性質や組織の必要性によります。
変更の内容だけでなく、改版の目的も記載しておいた方がよいでしょう。
・担当者 … 問い合わせ先
・承認者 … 責任の所在

改版履歴は、利用者にとって以下の恩恵があります。
・改訂版を入手した際に、変更箇所を確認しやすい。
・変更の履歴を知ることで、取り組みの経緯や方向性を知ることができる。
・定期的に改訂される文書が改訂されていないなど、不都合な事態に気づきやすい。
改版履歴がないと、これらが出来ないので困ります。特に、文書管理システムを用いずに運用ルールで文書管理を行っている組織は影響が大きいでしょう。また、文書管理システムを導入している組織においても、次の理由で改版履歴の運用(改版履歴を文書内に含めておくこと)をお勧めします。
理由1
文書作成ツールで管理する情報(変更履歴)と、文書管理システムで管理する情報(識別情報)を、まとめて確認できる。
理由2
外部に公開する場合、公開された側がシステムを使えない。
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以上、文書の版管理を考えるうえで重要なことを述べました。
「版管理」という言葉には、似て非なる意味があるので注意しましょう。
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