文書化した情報(総論)

これまで本ブログでは様々なテーマで品質の世界について語ってきましたが、文書類についてほとんど触れてきませんでした。出版した書籍では、文書、記録、手順書、仕様書、計画書などについて書いてきましたが、何故か本ブログで触れていなかったことに気がつきました。そこで今回は、文書類に関わることをまとめて述べたいと思います。

“文書” とは文章を記したもの(書類、技術書、書籍(紙・電子)など)全般を示しますが、ここでは仕事に関わる文書のうち、『製品・サービスの品質』に関する文書について取り上げます。


文書の種類

製品・サービスの品質に関わる文書はそれぞれの会社や組織によって異なる思いますが、その性質によって大きく「仕様書」「手順書」「計画書」「記録」の4つに分けられると考えています。
その説明の前に、前提として『プロセス』について少し説明しておきます。

製品・サービスを提供するまでには幾つかのプロセスを経ることになります。プロセスとはINPUT変換してOUTPUTを生み出す》ことです。この世のすべてのシステム(機械、プログラム、人の行動など)は、すべてプロセス( INPUT→変換→OUTPUT)の組み合わせで出来ています。
例えば洗濯機で言えば、「洗濯を楽にしたい」という要望(INPUT)を変換して「汚れを落とす機械を作る」という企画(OUTPUT)が出来ます。そして「汚れを落とす機械」という機能(INPUT)を変換して「洗濯槽○cm、モーターはここに」という設計(OUTPUT)が出来ます。さらにそれらを細分化して組み合わせることで「洗濯機」という製品が出来上がるのです。
  『製品・サービスの提供』プロセスの最初のINPUTが “お客様の要求” です。そして、
  『製品・サービスの提供』プロセスの最後のOUTPUTが “納品物またはサービス提供” です。

『製品・サービスの提供』に関する各プロセスの、INPUTやOUTPUTにあたる文書が「仕様書」です。
また、各プロセスの具体的なやり方(変換)を示した文書が「手順書」であり、
その通りにやったことの証拠や計測結果が「記録」です。
そして、複数のプロセス(INPUT→変換→OUTPUT)の構成や順序などを定め調整するのが「計画書」です。


つまり、『製品・サービスの提供』において、各文書は次のように用いられます。

“お客様の要求” を最初のINPUTとして、最後のOUTPUTである “納品物またはサービス提供” までの、一連のプロセスの構成や関連を計画書で示す。
各プロセスでは、INPUTである仕様書に書かれた内容を、手順書に書かれたやり方に従って変換して、OUTPUTである仕様書を作成する。

その証拠を記録に残す。

さらにその上位には、品質マネジメントシステム(QMS)を記述する文書や、見積りや契約など商取引に関する文書、会社運営に関わる文書など様々な文書がありますが、ここではそれらは割愛して、製品・サービスの品質に関わる文書のみを取り上げます。

ときどき、仕事上の文書をすべて「仕様書」と呼んでいる人を見かけることがありますが、”計画書”、”手順書”、”仕様書”、”記録” という名称をそれぞれ使い分けることをお勧めします。各文書によって、管理の観点が微妙に異なるからです。その違いは後日の【各論】で述べます。


文書の管理

実は、ISO9001(JISQ9001):2015には、計画書、手順書、仕様書などの具体的な文書を示す言葉は出てきません。すべて「文書化した情報」となっています。そして、その前後の文脈から、計画書・手順書・仕様書・記録の中のどれのことを言っているのか読み取らなければなりません。
「文書化した情報」の後に続くワード(例えば、保持、維持、作成、変更、利用など)によってどのように扱わなければならないかが分かるので、どういう文書なのかはある程度は分かります。

また、JISQ9000:2015 では「文書」を『情報及びそれが含まれる媒体』と定義しています。この “情報” と “媒体” をどう扱うかによって、文書毎の管理方法が決まります。

私は、文書を用いる目的は、大きく分けると次の3つであると考えています。
1. 情報を整理する
2. 情報を伝達する
3. 情報を保管する

この3つの目的を踏まえたうえでどう行動するべきかを考えると、文書を作成したり利用する際に行うべきことが、ある程度見えてきます。

この時、とかく忘れられがちなことを以下に記しますので、心に留めておいてください。どの文書にも共通して言えることです。

  • 文書を作ることは、頭の中を整理すること。文書は、何度も書き直すことで試行錯誤する道具である。
  • 内容の承認と伝達の承認は別物。内容が正しくても伝えてはならないこともある。伝えてはいけない人もいる。
  • 文書には適用期間がある。使っていいのか分かることが重要。「最新版」は実は最新ではないかも知れない。
  • 文書管理は作る側だけでなく受け取る側も重要。必要な時に、必要なものが、必要な状態で利用できること。

各文書の管理上の注意点は、後日の【各論】で述べます。

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