断・捨・離

「断捨離」は、十数年前に大流行した言葉で、今ではすっかり日本国内に定着しています。
今回は、品質の世界における断捨離について述べたいと思います。

「断捨離」とは、ヨーガの修行法である、”断行” 、”捨行” 、”離行” をつなげた言葉です。昔からある言葉だと思っている人もいるかも知れませんが、実は数十年前に日本にヨーガの思想を広げるために用いられた言葉です(詳しくはWikipedia参照)。

断捨離と聞くと「捨てること」と思っている人もいるようですが、断捨離とは単に「捨てる」ことではありません。むしろ、”捨てること” は断捨離の修行の中でも下位の位置づけだと思っています(個人の意見)。断捨離とは、
【断】不要な物が入るのを断つ(手に入れない)
【捨】不要な物を捨てる
【離】物への執着から離れる

例えば、ネットショップや百円ショップなどで「便利そう」と思って買ってみたが、置き場に困って「断捨離だ」と言って捨てたものの、懲りずにまた新しい商品に釣られて買い漁る・・・ などというようなことをやっていませんか? それでは少しも断捨離になっていません。本当に断捨離を行うなら、新商品に心を奪われることなく、買う前に「本当に必要か?」をよく考えることから始めるべきだと思います。

また、物を買う前には捨てる時のこともよく考えたうえで決めましょう。捨てることが大変なものがたくさんあります。例えば、スプレー缶(使い切るまで捨てられない)、充電式家電(バッテリーの処分)、トレーニング機器(重い)など。捨てる時のことも含めて「本当に買う必要があるか?」をよく考えましょう。


さて、エセ断捨離の話はこれくらいにして本題に入ります。品質の世界の「断・捨・離」の話です。
品質の世界においても、「断」「捨」「離」はとても重要です。以下、その代表的な観点を示します。

【断】製品・サービスの品質に悪影響をもたらす要因が入ってくるのを断つ
要因とは、例えば、質の悪い材料、不良部品、やる気のない人間などです。
自分たちがどんなに頑張って設計や製造のやり方を改善したり工夫したとしても、外から入ってくるものが悪ければ何にもなりません。完璧な製造工程や製造マニュアルがあっても、用いる部品が不良品であれば、それらを用いた完成品も不良品です。大絶賛のレシピを見て作っても、材料がマズければおいしい料理はできません。また、料理のスキルが乏しければレシピは役に立ちません。
高品質の製品・サービスを目指し、その品質を維持し続けるためには、作り方など内部のやり方を改善するだけでなく、外から入ってくる材料や部品の受入検査や、作業に関わる人間の適性や力量の確認も重要なのです。

【捨】不要になった記録を捨てる
品質管理においても不要になるものはたくさんあります。その代表が「記録」です。QMSを運用していると、いわゆる “品質記録” が溜まっていきます。溜まり過ぎると保管場所がなくなるので困りますが、それ以上に「必要な記録が分からなくなる」という重大な問題を引き起こします。ですので、記録は時々見直して、不要になったものを捨てることが必要です。
しかし、ただ捨てればいいという訳ではありません。必要な記録を捨ててしまったり、後で必要になって困ることがないようにしなければなりません。”不要/必要” を決める明確な《基準》と、将来の必要性を見極める《長期的視点》が必要です。

【離】良品と不良品を離す
良品とは、受け入れ検査で合格になった部品や、出荷検査で合格になった製品です。
不良品とは、受け入れ検査で不合格になった部品や、出荷検査で不合格になった製品です。
品質管理では、使ってはいけない物が誤って使われることがないようにすることが極めて重要です。つまり、不良部品が誤って製品に組み込まれたり、不良製品が誤って出荷されたりすることがないように、〈良品〉と〈不良品〉を明確に区別することが必要なのです。
〈良品〉と〈不良品〉の区別には、次の2つの手段があります。両方を併用すれば、より効果が増します。
(1) 置き場所を離す。隔離する。
良品と不良品を物理的に遠ざけて、不良品に触れないようにすることです。例えば、棚を分ける、箱を分ける、フォルダを分ける、アクセス権を設ける など。

(2)本体に明示する。
それが不良品(または良品)であることが分かるようにすることです。例えば、色を塗る、ラベルを貼る、穴をあける、ファイル名を変える など。

不良品(使ってはいけない物)は、隔離したのち速やかに適切に処置することが必要です。処置の一つが “廃棄” 、すなわち【捨】の取り組みです。

以上、品質管理における断捨離をまとめると、次の取り組みです。
不良要因の侵入を断ち不良品が見つかったら隔離して確実に処置する(捨てる)


ISO9001においても断捨離に関する項目が多くあります。代表的なものを記します。

【断】に関すること
『8.4 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理』において、かなり細かく示されています。例えば、
・委託先の選定、監視、再評価
・委託先業者の “作業” の管理と、提供される “製品・サービス” の管理
・自社のマネジメントに対する委託先業者のマネジメントの影響
・委託先業者へ伝えるべき情報

【捨】【離】に関すること
『8.7 不適合なアウトプットの管理』で明確に示しています。
「要求事項に適合しないアウトプットが誤って使用される又は引き渡されることを防ぐために(中略)識別し、管理すること」とはっきりと書かれています。
また、「捨てる」という条文はありませんが、適合しないアウトプット(不良品のこと)の処置として、次のことが示されています。
 a) 修正
 b) 拡散防止
 c) お客様への連絡
 d) 特別採用(お客様の許可を得て出荷する)
「捨てる」ことは、b) の一部だと考えられます。

コメント

  1. ねんど より:

    いつも分かりやすい例を交えて説明いただきありがとうございます。当方メーカーの品質保証部に昨年配属され、品質について全社員に浸透させるという役割の業務をしており、品質についていつもこちらのコラムで学んでいます。当社の方針に製品品質やサービス品質を重視すると書いてあるのですが、製品品質はわかるのですがサービス品質がいろんなサイトで検索しても腑におちる回答がなく定義がわからず困っております。ユーザーの要求、満足度を満たしていることなどと書かれていることが多いのですが、いまいちピンとこなくて。。

    わっくんさんならサービス品質をどう定義づけされますか?何か品質素人でも分かりやすい例を交えて教えていただきたいです。

    • wakunblog より:

      いつもご覧いただきありがとうございます。コメントをいただき、とてもうれしく思っています。
      ご質問の件ですが、サービス品質はとても重要なものであり、本来このブログでも取り上げなければならないテーマですが、とても難しいので無意識に敬遠していたように思います。いずれ、しっかり考えたうえで取り上げたいと思います。今回は、私が抱いている「サービス品質」のイメージをお伝えします。
       私は、「製品品質」と「サービス品質」を明確には区別していません。「お客様に提供する何かの品質」という捉え方でいます。「製品 or サービス」という大きなくくりで品質を問題にするのではなく、個々の対象にとっての品質を考えています。例えば、洗濯機なら「信頼性:動く」「機能性:汚れが落ちる」「操作性:使いやすい」など。コールセンターなら「信頼性:つながる」「機能性:正確」「操作性:問合せしやすい」など。ですので、「製品品質やサービス品質を重視する」という記述は、私なら「お客様に提供するすべての品質を重視する」と解釈します。
       ISO9001には「製品」と「サービス」という言葉がそれぞれ70個くらい出てきますが、ほとんど「製品」と「サービス」がセットで使われています。製品とサービスとで、品質管理の要素に違いは無いのです。ですので、「製品品質」と「サービス品質」の違いを気にする必要はないと思います。もし、その違いを明確にしたい、あるいは明確にする必要があるのであれば、貴社の方針を定めた人に聞いてください。定義というのは、使われる文書や議論の場によって変わるので、貴社において「サービス品質」をどう定義しているのかを確認するのがよいでしょう。

  2. ねんど より:

    ご返信ありがとうございます。明確に区別したいという思いがあり、調べるほどに混乱していましたが品質管理において違いを気にすることはないということですね。分かりやすく説明いただきありがとうございます。またいつか、わっくんさん解釈の「サービス品質」記事楽しみに待っております。

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