6月27日は松本サリン事件が起きた日です。1994年6月27日深夜に、長野県松本市の住宅街でオウム真理教による毒ガス散布テロが起きました。死者8名、負傷者数百名におよぶとても悲惨な事件でした。私はこの事件を通して、その後の品質管理に対する姿勢に少なからず影響を与えているとても大切なことを学びました。今回はそのことを書きたいと思います。
この事件は悲惨なテロ事件という一面の他に、第一通報者が容疑者扱いされた《報道被害事件》としての一面もあります。当時、私も『容疑者宅に家宅捜索』という報道を受けて「これで解決だな」と思いました。実際にはこの報道は間違いで、翌年の地下鉄サリン事件後のオウム真理教施設への捜索と教団幹部の供述により、松本の事件もオウム真理教によるものと判明しました。無実が証明されるまでの間、容疑者扱いされていた河野氏と家族は、警察の取り調べ、マスコミの取材、全国からの誹謗中傷を受け続け、筆舌に尽くしがたい苦労があったと思います。
真相が解明された後、ある報道番組を見て知ったのですが、あの大変な時に河野氏がとった行動にとても驚きました。河野氏は、警察で聞かれたことや話したことを、帰宅してから思い出してすべて記録していたそうです。そして、子供たちにも同じことをするように言っていたそうです。意識不明の妻(毒ガスの被害者。14年後に死亡)を抱えて、子供たちの世話をしながら、逮捕されるかも知れない不安と戦いながら、よく冷静にそんなことができるなと驚嘆しました。なぜ河野氏がそのようなことをしたのか本当のところは分かりませんが、おそらくは次のようなことだったのでないかと思います。
①自分が言ったことの精査
②冤罪をはらすための情報集め
③冤罪がはれた後の名誉回復
④これからも続くであろうつらい日々のための心の支え
当時の私はISO9001にまだ関わっていなかったので「記録」の意味を深く理解していたわけではありませんが、記録を取り続けることの大切さと難しさは何となく感じました。そして、数年後にISO9001に関わるようになり「品質記録」について学んだ際、この事件を思い出して記録の目的や重要性についての理解が深まりました。
記録を残す目的は、次のいずれか又は両方です。
【目的1】 自分を改善するため = 振り返えり、未来を変える。いわば《攻めの記録》
【目的2】 外部に提示するため = 行動や結果を証明する証拠。いわば《守りの記録》
目的1に当たる記録は、例えば、日記、家計簿、アルバムなどです。品質管理では、議事録、テスト記録、障害記録などがあります。目的2に当たる記録は、例えば、お薬手帳、ポイントカード、ドライブレコーダー、店舗のトイレなどでよく見かける清掃記録などです。品質管理では、お客様への作業報告やISO9001審査において確認する記録がそうです。他にも、浮気現場の写真やパワハラ発言の録音などは、被害の証拠ですが《攻め》の意図もあるでしょう。また、日記はいじめやハラスメントの証拠になるようです。このように、記録は《武器》にも《防具》にもなります。
しかし、これらの記録はすべて過去の情報です。過去は決して変えられません。したがって、記録も変えてはいけません。この事件は忘れてしまいたいほど悲惨な事件でしたが、起きてしまったことを無かったことには出来ません。起きてしまったことは、事実をしっかりと記録して後世に伝えていかなければならないと思います。品質管理においても同じです。悪い結果を隠したり改ざんしたりすることは後々良くない結果をもたらします。どんな結果でもきちんと記録し、分析・反省し、次に生かしていくことが大切です。
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