今回は、前々回の記事『改良・改善・改革』に関連する情報です。前々回の記事では「良くする」という意味の言葉について述べましたが、今回は「大きく(根こそぎ)」という意味を表す際に用いる言葉について考えます。
今回も、言葉の定義ではありません。言葉は人それぞれ感じ方が異なります。同じ言葉でも人それぞれ異なるイメージを持っており、そのイメージを共有することが大切です。今回は、「根本・根底・根源」という言葉に対する私のイメージをお伝えしたいと思います。
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根本・根底・根源に共通する「根」という文字は植物の “根っこ” のことです。地面の下にあって見えないけれど、植物全体を支えているとても重要な部分ですね。それが転じて【物事の深い部分にあって全体を支える重要なもの】というニュアンスの言葉に使われています。根本・根底・根源もその一つです。ですので、これらはとても近い言葉なのですが、イメージが微妙に違います。
その違いをAIを使って調べてみたのですが、どうもしっくりきません。そこで、私が「根本・根底・根源」に対して抱いているイメージの違いをまとめてみました。

さらに違いが鮮明になるように、近いものに例えて表現すると以下のようなイメージです。
根本
論理的に組み立てられたシステムの中核。緻密な分析によって明らかにできる。
根底
建物の礎石のようにゆるがない存在。これに立ち向かうにはかなりの覚悟が必要。
根源
御神体や聖域・仏法・精霊などのように神聖なもの。迂闊に触れると天罰が下る。
これらはあくまでも私のイメージです。皆さんは “根本・根底・根源” という言葉にどんなイメージを持っていますか?
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ISO9001は「根本」の世界です。問題の根本原因(真因)を追究して除去する(改善する)ことがISO9001の基本的な考え方です。
一方、経営品質はイノベーションすなわち「根底」の世界です。そこでは、常に会社を変革し続けること(常識をぶち破ること)が求められています。
また、時には企業価値の再定義を図ることもあります。これは「根源」の領域です。
企業価値の再定義とは
例えば、回転寿しは「旨い寿司を手軽に食べて欲しい」という思いから始まりました。それまでの「寿司は目の前で握って出すのが当たり前」という常識を壊して、皿にのせた寿司をベルトコンベアで流してお客さんに自由に取ってもらうようにしたのです。これはイノベーションです。しかし、現在の回転寿しは “寿司” だけではありません。スイーツや唐揚げやラーメンなどもあります。これは、店の存在理由を「寿司を提供する店」から「家族で手軽に食事を楽しんでもらう場所」に再定義した結果です。もしも、あくまで「寿司屋は寿司を出すもの」にこだわっていたら、現在のような発展はなかったと思います。これが『企業価値の再定義』です。
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報道などでよく偉い人が「根本的に対処します」と言っているのを耳にしますが、それを聞いていて時々思う事があります。それは、主に次の2つです。
(1) 単に「大掛かりに..」と言っているだけで、本質や真理を考えていないのではないか?
例えば、減税対策の議論では、減税額や所得制限額など “金額の大小” の議論に終始しているだけで、税制度の本質や真理についてはあまり議論していないように感じます。
そもそも今の税制度は複雑過ぎる。様々な世情や都合から手が加えられて、ツギハギだらけになっているように感じる。これが物作りの世界なら、リセットして一から作り直す。それが根本的というものではないか?
(2) 「根本」ではなく「根源」から考え直した方が良いのではないか?
例えば、「選択的夫婦別姓」の議論では、”個人の自由” と “制度の安定” の議論に終始しているように感じますが、そもそも『姓とは何か』の議論に立ち返ってみるべきではないかと考えます。
単に個人を識別する情報ならマイナンバーで済む(姓も名も不要)。家族の絆や一族の団結のためと言っても、昔ほど重要視されなくなっている。…… 制度の是非の議論の前に、姓(苗字)とは一体何なのか? 本当に必要か? なぜ必要か? その必要性に照らしてどうあるべきか? そういう根源的なことを、そろそろ考え始めてもよいのではないだろうか?
同様に「同性婚」についての議論も、もっと根源的な議論から進めるべきだと考えています。
結婚とは何か? いろいろな制度において、なぜ配偶者が特別扱いされているのか? なぜ一対一なのか?
私は、【姓】や【結婚】という仕組みが社会コミュニティー(人間同士のつながり)を強くし、子供を産んで育てる環境を整え、子孫繁栄、引いては人類(ホモ・サピエンス)の繁栄を促してきたと思っています。ネアンデルタール人よりもコミュニティー能力に優れたホモ・サピエンスが繁栄したように。(脳の大きさはネアンデルタール人の方が大きいが、ホモ・サピエンスの脳は社会生活に優位なように発達しているらしい)
このコラムにおいて「選択的夫婦別姓」や「同性婚」の是非について語るつもりはありません。ただ私は、
◆現代においては、姓や結婚に変わる “何か” の方が、《人類・国・子孫の繁栄》に寄与するのではないか?
◆今までの姓や結婚の考え方では、もはや《人類・国・子孫の繁栄》に寄与できないのではないか?
◆現代社会が重視する価値観が、《人類・国・子孫の繁栄》から別の “何か” に変わってきているのではないか?
ということを危惧しています。だとすれば、事は「選択的夫婦別姓」や「同性婚」だけでは済みません。社会全体を再定義する必要があるかも知れないのです。
もしも、《人類・国・子孫の繁栄》よりも重要な “何か” が存在して、社会システムをそれによって再定義したとしたら、やがて人類・国・家系は滅びるかも知れません。ですが、それが人々の総意であれば仕方のないことです。
ずいぶんと大きな話になってしまいましたね。でも、根本と根源の違いはお分かりいただけたかと思います。会社や学校において何か大きな問題が起きたとき、『根本(改善)or 根底(変革)or 根源(再定義)』の、どのレベルの対策が必要なのか考えてみてください。
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まとめ
【根本】は《改善》と深くつながっている。
【根底】は《改革・変革》と深くつながっている。
そして、修正・改良・改善・改革・変革の先には《再定義》があり、
【根源】は《再定義》と深くつながっている。
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