“法” と “律”

 今回は、[法] と [律] についてお話します。[法律] のことではありません。仏教用語の [法] と [律] のことです。これらは品質の世界にも大きく関わっています。

[法] とは、世界の真理です。また、お釈迦様(ブッダ)の教えのことを [法] と言うこともあります。真理ですので、どんなことがあっても変わることがありません。
[律] とは、お釈迦様の教えに従って修行する人たちが集団で行動するためのルールです。修行する者は必ずこれを守らなければなりません。これを破ったときの罰則(謹慎や追放など)も定められています。ルールですので、時代の変化とともに変化します。

 ちなみに、[戎] という言葉もあります。 [戒律] は仏教信者が守らなければならないことの総称ですが、[律] には罰則があるのに対して [戎] には罰則がありません。いわば、現代で言えば [律] が法律、[戎]が道徳、といったイメージです。NHKドラマ『虎に翼』で「法で道徳を規定するなど許せば、憲法14条は壊れてしまう。道徳は道徳、法は法である。」というシーンがあります。ブッダが教えを広めた時にも、法律と道徳の違いは認識されていたのでしょう。

[法] と [律] の関係をまとめると次のように考えてください。
[法] : 世界の真理 → 不変なもの
[律] : 組織ルール → 可変なもの

 この、不変と可変の考え方は、現実社会においても存在します。例えば、企業が経営改革を進めるとき、よく「変えるべきものと変えてはいけないもの」という話が出てきます。この時の「変えてはいけないもの」には、経営方針、社是、社会的責任など、社会における “企業の存在意義” があります。そして「変えるべきもの」には、経営システム、ビジネスモデル、社内規定、慣習、社風などがあります。

 経営品質おいて「変えてはいけないもの」が『顧客価値最優先の経営』です。品質マネジメントシステムにおいては、品質方針がそれにあたるでしょう。また、品質マネジメントシステムの構築においては、ISO9001規格も「変えてはいけない(勝手な解釈は許されない)」ものです。厳密には、品質方針やISO9001規格は変更されることがあるので仏教の [法] とは違うものですが、そうそう簡単には変えられないものです。

「変えてはいけないもの」以外のものは「変えてもよいもの」です。むしろ、必要な場合には積極的に「変えるべきもの」です。例えば、広告で言えば、ポスター、チラシ、CM、ポスティング、DM、Web広告など様々なものがあり、製品や客層に応じて適切なやり方に変える必要があります。また、現金払いオンリーでは客離れが進むのでキャッシュレスの導入を考えなければなりません。
 世の中には、ルールを変えることを頑なに拒む人がいますが、変える理由があるにも関わらず頑なにルール変更を拒むことは避けなくてはなりません。ルールを変える理由と変えない理由をよく検討して判断しましょう。

 ISO9001(JISQ9001)には、品質マネジメントシステム(※)の変更(改善)を促す記述が2ヶ所あります。
※ 品質マネジメントシステム:略称「QMS」。品質を円滑に統括する仕組みの総称。具体的には、ルール、やり方、システム、帳票、慣習など。詳しくは、記事『ISO9001理解のヒント(立ち位置)』参照。


4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス
4.4.1
組織は、(中略)品質マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、かつ、継続的に改善しなければならない.


10.3 継続的改善
組織は、品質マネジメントシステムの適切性、妥当性及び有効性を継続的に改善しなければならない.

 このように、ルールは「守るべきもの」であると同時に、必要な時には「変えるべきもの」なのです。


参考書籍1 「ブッダ 最後のことば」「ブッダ 真理のことば」
仏教の本質を知ることができます。もともとのブッダの教えと仏教の変遷、仏教が目指す最終到達点、ブッダの死の意味など、これまで描いていた仏教に対する世界観が大きく変わります。

参考書籍2 「超訳 ブッダの言葉」
ブッダが残した言葉(教え)を現代口語に意訳したものです。原則、1テーマ1ページ10行前後になっていて、とても読みやすい本です。怒らない、比べない、求めないなど、心の有り様を教えてくれます。

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