商品やサービスについてお客様から文句を言われるのは嫌なものです。文句のつけようがないものを提供することが理想ですが現実にはそうはいきません。今回は、お客様からの苦情やクレームについて考えてみたいと思います。
目次
・苦情とクレームの違い
・欲からみる苦情の目的
・苦情の性質による対応方針
・ISO9001における苦情の扱い
・苦情(クレーム)は宝の山
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苦情とクレームの違い
翻訳アプリを使うと、”苦情” は「complaint」、”クレーム” は「claim」とあります。その違いから、苦情とクレームは次のような違いがあると考えられます。
・苦情(complaint)… 不平・不満・文句を言う
・クレーム(claim) … 権利を主張して要求する
つまり、英語-日本語の翻訳として考えると、文句を言うのが〈苦情〉、賠償を求めるのが〈クレーム〉のようです。例えば、食堂で「まだ~! 早くしてよ!」が苦情、「頼んだ物と違う。作り直して!」がクレームです。
しかし、これはあくまでも異種言語同士の機械的な対応であって実際の使い方は微妙に違うかも知れません。日本では「クレーム=不満や文句」として使っていることが多いですね。日本では〈苦情〉と〈クレーム〉を区別せずに使っても違和感はないでしょう。
ただし、ネイティブスピーカーと話す場合は「complaint」と「claim」をはっきり区別して使いましょう。日本で用いている「クレーム」は和製英語だと思った方がよいようです。
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欲からみる苦情の目的
苦情を言う目的として真っ先に思うのは「自分の権利を守る」ことですね。しかし、その他にもいろいろな目的があります。そして、それらはすべて自分の “欲” を満たしたい時に発せられます。以下、『マズローの欲求5段階説』に沿ってそれぞれの目的に潜む “欲” を示します。
【苦情の目的】
1.自分の権利を守るため … 欲求段階2(安全の欲求)
2.イライラのはけ口 … 欲求段階1(生理的欲求)
3.他者より偉く見られたい … 欲求段階4(承認の欲求)
4.社会秩序を守るため … 欲求段階3(社会的欲求)
5.店のため(助言、支援) … 欲求段階5(自己実現の欲求)
苦情を言われた時、言ってきた人が何を目的としているのかを考えると、少し落ち着きを取り戻せるかも知れません。逆に、苦情を言いたくなった時も、自分が今何をしたいのかを冷静に考えてみましょう。
今話題のカスタマー・ハラスメントは、上記の2や3のことだと思うかも知れませんが、実はこれらの目的すべてがカスハラに発展する危険をはらんでいます。人は、自分の主張が否定されると時として攻撃的な反応をすることがあります。つまり、苦情を拒否されると攻撃的になる危険があるのです。最初は自分の権利を守るための苦情だったとしても、拒否されると攻撃性がエスカレートしていってハラスメントになることがあります。ですので、苦情のやりとりの中では、先に述べた苦情の目的を何度も見つめ直すことが必要です。
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苦情の性質による対応方針
苦情には、正当な苦情(正しい主張)と間違った苦情(言いがかり)があります。また、苦情とともに示される要求にも妥当な要求(損害に見合った要求)と過剰な要求(大き過ぎる要求)があります。そして、それぞれの性質毎に対応方針が変わってきます。
〈正当な苦情〉に対して適切に対応するのは当たり前ですが、〈間違った苦情〉についても検討が必要な場合があります。それは、お客様の誤解による苦情です。この時、単に誤解を解くだけでなく、なぜ誤解したのかを確認して必要に応じて対策することが必要です。例えば、口頭による説明での不適切な表現や、説明書の分かりやすさなどです。
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ISO9001における苦情の扱い
ISO9000(JISQ9000:2015)では次のように定義されています。
苦情(complaint)
製品若しくはサービス、又は苦情対応プロセスに関して、組織に対する不満足の表現であって、その対応又は解決を、明示的又は暗示的に期待している.
ここで注目すべきは、「不満足の表現」と「対応又は解決を~期待している」です。苦情があったとき、そのお客様は「不満がある。直して欲しい」と思っているのです。当たり前だと思うかも知れませんが、これはとても大切なことです。苦情を受けた側は、とかく身に降りかかった「怒られた」ことに意識がいきがちですが、それよりもお客様に降りかかったことに意識を向けることが大切です。お客様の不満を取り除いて満足していただくことが重要なのです。
また、JISQ9001:2015には苦情に関する記述が2ヶ所あり、次のように扱われています。
(1)顧客からのフィードバックのひとつ
顧客からのフィードバックとは、製品・サービスを提供した際のお客様の反応です。苦情の他にも、例えば、感謝、アンケート(意見、感想、コメント)などがあります。
(2)不適合現象のひとつ
不適合とは、要求事項を満たしていないこと、つまり「お客様や規格が求めていることを満たしていないこと」です。簡単に言うと〈不具合〉です。通常、再発防止が必要です。
つまり “苦情” とは、《再発防止を必要とするお客様の反応》と言えます。
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苦情(クレーム)は宝の山
ISO9000(JISQ9000:2015)の『顧客満足』という用語の定義の注記に、次のような記述があります。
注記2 苦情は、顧客満足が低いことの一般的な指標であるが、苦情がないことが必ずしも顧客満足が高いことを意味するわけではない.
注記3 顧客要求事項が顧客と合意され、満たされている場合でも、それが必ずしも顧客満足が高いことを保証するものではない.
苦情がないからといって、お客様が満足しているとは限りません。そして、お客様から言われた通りだとしてもお客様が満足するとは限りません。つまり、「言われた通りにやった。苦情もない。だからお客様は満足している」とは限らないのです。何も言わないが不満を抱えている人が実はとても多く存在します。
製品やサービスに不満を感じた人のうち、実際に苦情やクレームを言う人は4%程度と言われています。残りの96%は不満を抱えながら黙っているのです。これを “サイレントクレーマー”と言います。サイレントクレーマーの再購入率は10%に満たないと言われています。つまり、不満を抱えている人のうち90%の人は何も言わないまま二度と買ってくれなくなるのです。一方、苦情に対して適切に対応すると逆にファンになることがあり、再購入率は80%を超えると言われています。
再購入率を改善するためにはサイレントクレーマーの対策が不可欠ですが、彼らの無言の不満を知るにはどうすればよいでしょうか? その答えが《苦情》です。苦情を言ってくる人とサイレントクレーマーには4%と96%という数の違いはありますが、不満の内容にさほどの違いはないはずです。寄せられた苦情をもとに製品やサービスの問題点を改善することで、再購入(強いては新規購入)の拡大を図ることができます。
また、苦情やクレームは製品・サービスの問題を改善につなげるだけのものではありません。そこには、新たなビジネスにつながるアイデアが含まれているかも知れません。苦情やクレームは、まさに《宝の山》なのです。苦情やクレームは、避けて逃げるものではなく、積極的に取りに行く(お客様から受け取る)べきものです。
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