先日、品質に関する講演を聴いたので、その内容について報告します。
聴講したテーマは以下の2つ。
『マネジメントシステムの運営に役立つリスクマネジメントの活用』
横浜国立大学 客員教授 野口和彦氏
『未然防止への道 —品質管理と信頼性工学で築く信頼と安全–-』
電気通信大学 名誉教授 鈴木和幸氏
どちらの内容も、品質保証という面で共通しており、とても興味深く聴きました。
新たな発見や気づきが多くあり、知識をブラッシュアップすることができました。
以下、私が特に興味深かったことをいくつか絞ってお伝えします。
著書『エンジニアを目指す人のための品質コラム』の参考情報としてご覧ください。
私が解釈したことを私の言葉で書きますので、講演者の意図と多少食い違っていることもあるかも知れませんが、ご容赦ください。
◆リスクとは「目的に対する不確かな影響」
・目的の達成を、妨害・低下・遅延・促進させるものがリスク。
・リスクはネガティブなものばかりでない。「好ましいもの」「好ましくないもの」「その両方の性質を持つもの」がある。例えばAI技術は、大きな利益を生む反面、使い方次第では害にもなる。
◆リスクは、環境・時間・立場・状況などによって変化する
・影響の大きさは立場や状況によって異なる。対策も異なる。
・過去の原因によって現在のリスクが生まれる。「今何が問題か」が重要。
現在の原因によって未来のリスクが生まれる。「これから何が問題になるか」も重要。
・リスクを危険指標としてとらえていると、過去に経験したことしか対応できない。
未知の危険に備えるには、定量化が難しいリスクやデータがないリスクも考えなければならない。
◆リスクマネジメントは「価値の保護」と「価値の創出」が目的
・「危険回避」だけがリスクマネジメントではない。影響があることはすべてリスクであり、それに備えることがリスクマネジメント。
・対策がとれないからといって無視してはいけない。【リスクの保有】とは何もしないことではなく、「今以上のことはしない」という “意思決定” 。見なかったことにすることと意思決定することは大きく違う。
◆リスクマネジメントは、他のマネジメントと統合されるべき
・リスクマネジメントはそれ単独では意味を持たない。何かのマネジメントと一緒になって初めて意味を持つ。 例えば、財務リスク、品質リスク、要員リスクなど。
・マネジメントを “システム” にすると考えなくなる恐れがある。MS(マネジメントシステム)を導入しても、考えることを忘れてはならない。
・形から入ると本質を見失うことがある。単に雛形を模倣するだけではダメ。
リスクマネジメント(ISO31000)も、品質マネジメント(ISO9001)も、環境マネジメント(ISO14001)も。
◆トラブルや不正が発覚して、痛い目にあって初めて本気になるのが現実
・生じたことへの批判は誰でもできる。重大トラブルをいかに防ぐか重要。それが《未然防止》。
・予測できないことは防げない。予測とは考えて想像すること。
未然防止は、起こりそうなこと(結果)を考えるのではない。絶対に起こしてはいけない事象から、それを起こしうる原因(可能性)を考える。
・人は誰でもミスや失敗をする。そこから何を学んで伝えるかが重要。《他人事を自分事にすること》が重要。
◆未然防止のためには、多様化冗長にすることが重要
・冗長:同じ機能のシステムを複数用意すること … どれか一つが止まっても動き続ける(高信頼性)
・多重化冗長と多様化冗長
〈多重化冗長〉同じシステムを複数用意 … 同じ条件ですべてのシステムが止まる危険がある。
〈多様化冗長〉設計や構成が異なる同じ機能のシステムを複数用意
◆製品・サービスの良し悪しは受け手が決める
・顧客と社会に満足を与えた結果として、企業は売り上げを伸ばし、利益を得ることが出来る。
◆QCDSMEの優先順位が企業の価値を決める … それが企業理念
・Q(品質)、C(コスト)、D(納期)、S(安全)、M(法令順守)、E(環境)
・S(安全)とM(法令順守)が最優先であるべき。業績は取り戻せても、人命や信用・信頼は取り戻せない。
◆トラブルが起きる原因は、次の3つのどれか
①やり方が定められていない(基盤の問題)
②定められたやり方が不適切(ルールの問題)
③定められたやり方でやっていない(動機付けの問題、指導の問題、統制の問題)

◆トラブルは3Hでおきる
・Henka(変化)
・Hajimete(初めて)
・Hisashiburi(久しぶり)
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