顧客、お客様、カスタマー

 会社員になると当たり前のように「顧客」という言葉を使います。しかし、私生活においてはほとんど使いません。また、仕事でもお客様本人に向かって「顧客」や「顧客様」とは言わず「お客様」と言います。さらに、自分が客の立場になったときは、自分のことを「顧客」と言わずに「客」と言います。不思議ですね。
 今回、改めて「顧客」について考えてみたいと思います。

目次
顧客とは?
顧客とお客様の違い
「お客様は神様です」の誤解が生んだカスハラ
集客、接客、追客、顧客

顧客とは?

 ISO9000:2015 では、「顧客」を次のように定義しています。


 3.2.4 顧客(customer)
 (前略)~製品・サービスを受け取る、又はその可能性のある個人又は組織.
  消費者、依頼人、エンドユーザ、小売業者、内部プロセスからの製品又はサービスを受け取る人、受益者、購入者
 注記 顧客は、組織の内部又は外部のいずれもあり得る.

 ここで注目すべきことは、顧客とは製品・サービスを “購入する” 人や組織とは限らないということです。ISO9001にとって顧客とは、こちらが提供する物やサービスを “受け取る” 存在であり、その対価を支払ってくれる存在とは限りません。例えば、《内部》というワードが示す通り会社内の人や組織も顧客として扱う場合があります。具体的には、ある工程にとっては後工程が顧客(カスタマー)にあたります。

 日本経営品質賞において “顧客” に関する定義はありませんが、その記述内容から推測すると、こちらが提供する製品やサービスに対して対価を支払ってくれる存在(人または組織)であると思われます。

顧客とお客様の違い

顧客とお客様の違いを検索すると、いろいろな解説サイトがあります。例えば、
 〈顧客〉お得意様、〈お客様〉一般客
 〈顧客〉法人、〈お客様〉個人
 〈顧客〉クライアント(依頼者)、〈お客様〉カスタマー(購入者)
などなど。
 しかし私は、「顧客」と「お客様」に意味の違いはないと考えています。いずれも、こちらが提供する製品やサービスを受け取って対価を支払ってくれる存在(人または組織)です。違うのは使い方です。「顧客」は儀礼的、「お客様」は親しみやすい感じを受けるのでTPOに気をつける必要があります。
・製品やサービスを受け取る人に対して「顧客」を用いることは絶対になく、必ず「お客様」を用います。
・社内で用いる場合には「顧客」を用いることが多いと思います。例えば「顧客リスト」の方が「お客様リスト」よりも一般的です。
・第三者とのやり取りではどちらも使います。「実は第三者ではなく当事者だった」ということもあるので「お客様」を用いる方が安全でしょう。

 ちなみに、ISO9001(JISQ9001)には「お客様」というワードは出てきません。すべて「顧客(Customer)」で統一されています。

「お客様は神様です」の間違いが生んだカスハラ

「お客様は神様です」という言葉は、1960年台に歌手の三波春夫さんがある対談で言った言葉です。それが間違った意味で広まってしまい、現在のカスハラ(カスタマー・ハラスメント)の元凶になったと言われています。
 間違った解釈 :お客様の言うことは絶対だから従わなければならない
 三波春夫の意図:私は、神様に歌を捧げるつもりでお客様に歌っています
 そこには絶対者と服従者という上下関係の意図はありません。ひたすら芸に励むという心構えを言っているのです。

 この間違った解釈には2つの勘違いがあります。
①需要と供給(消費者と生産者)の上限関係
 商売には「買ってやる・買っていただく」だけでなく「売ってやる・売っていただく」という状況もあります。本来、需要と供給は対等であり、どちらかがどちらかに従うという関係ではありません。売り手も買い手も双方が幸せになるのが本来の姿です。そして、そうなれば社会も幸せになります。それが近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の精神です。
②自分が客だという考え
 その人が客かどうかは客側が決めることではありません。売る側が決めることです。売る側が「この人は商品の価値を認めて対価を支払ってくれそう」と判断して(客と認めて)取り引きが成立するのです。逆に買う側は「この商品は対価に見合う価値がある」と判断して(商品の価値を認めて)取り引きします。売る側が客を認めて、且つ買う側が商品を認めて、初めて売買が成立するのです。傲慢な人や理不尽な人は、お客様と認めてもらえません。

集客、接客、追客、顧客

 売るための3大要素として「集客・接客・追客」という言葉があります。
【集客】お客様を集めること。お店に来てもらったりサイトをクリックしてもらうことです。チラシやネット広告の良し悪しに影響されます。
【接客】集めたお客様に契約させること。カゴに入れたり、サインしたり、ポチッとしてもらうことです。コミュニケーション力や、サイト構成の良し悪しに影響されます。
【追客】リピート購入を促すこと。再購入や他の製品を新たに購入してもらうことです。ダイレクトメールやメールマガジンなどの良し悪しに影響されます。

 ビジネスにおいては、これに加えて【顧客】も重要な取り組みです。むしろ最重要と言ってもよいでしょう。ここでの “顧客” とは、「お客様を顧みる(かえりみる)」という意味です。《顧みる》とは「振り返って心を寄せる、気に掛ける」という意味です。具体には、苦情対応を含む再発防止の取り組みや、顧客満足調査です。

〈追客〉と〈顧客〉はどちらも製品・サービスを渡した後の取り組みなので同じようなことと思うかも知れませんが、全く違います。
〈追客〉: 「売上を伸ばしたい」… ”自分たち重視” の取り組み
〈顧客〉: 「お客様に寄り添う」… “お客様重視” の取り組み

 ISO9001は〈顧客〉の取り組みをとても重視しています。具体的には、品質マネジメントシステムの運営や品質目標の目的として「顧客満足の向上」を挙げており、顧客満足を監視し、分析&評価し、改善し、トップに報告するよう求めています。
 経営品質においても〈顧客〉の取り組みは重視です。顧客価値経営を実現するために、顧客・市場を理解し、顧客価値を創造することが求められています。

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