今回は、再購入に大きく影響する「顧客満足」について書きます。
目次
・〈リピーター〉の2つの意味
・新規購入と再購入の構造
・ベネフィットと顧客満足と顧客価値の関係
・ISO9001における顧客満足の扱い
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〈リピーター〉の2つの意味
〈リピーター〉とは同じ製品・サービスを再度購入または利用する人のことですが、場面によって2つの意味があります。
意味1:「初めて買う vs 買ったことがある」における “買ったことがある” 人のこと
意味2:「次も買う vs 次は買わない」における “次も買う” 人のこと
〈リピーター〉の対義語(反対の意味の言葉)を検索すると幾つかのサイトがヒットしますが、いずれもこの2つのどちらかの解説です。
意味1は「新規客か、既存客か」の区別であり、営業戦略における分け方です。新規のお客様と既存のお客様とでは求めることや期待することが違うので、それらを区別して拡大戦略(広告の仕方など)を考える必要があります。
意味2は「次も買ってもらえるか、買ってもらえないか」の区別であり、製品戦略における分け方です。機能性も品質の一部なので、品質管理における分け方と言ってもよいでしょう。ISO9001には「repeat」というワードは出てきませんが、再受注につながるワードはあります。それが『顧客満足(customer satisfaction:略してCS)』です。顧客満足が高いと再購入につながりますが、低いと難しくなります。
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新規購入と再購入の構造
新規購入と再購入に関する行動の流れを示したものが下の図です。営業戦略と品質戦略の関係も表しています。
営業戦略は「購入する気にさせること」が重要です。そのため、ターゲット層の客を多くを集めて、その気にさせるための情報を与えて、契約まで誘導することが戦略の主眼になります。つまり、”集客” ※ と “接客” ※ です。
品質戦略は「満足させること」が重要です。そのため、利用場面を想定した企画と、設計・製造における品質確保が戦略の主眼になります。つまり、品質管理と、”顧客(お客様を顧みること)※ ” です。
お客様の満足を「顧客満足」と言い、その程度を「顧客満足度」と言います。そして、顧客満足度を調べることを「顧客満足度調査(CS調査、CS計測)」と言います。
※「集客・接客・顧客」については、記事『顧客、お客様、カスタマー』参照。
営業戦略は「未来の満足を想像させる」ことに注力します。一方、品質戦略は「本当に満足したか」を確認して、それを教訓として次のお客様をさらに満足させることに注力します。つまり、営業は〈未来をイメージさせるもの〉、品質管理は〈現実を注視するもの〉という違いです。近年、これに《口コミ》がより大きく関わるようになっています。”満足” という現実の情報が新規購入時の判断材料(未来を想像するための材料)として重要視されるようになったのです。そのため、製造部門や品質部門に対して、営業部門から「お客様が満足するものを出せ」という要望が大きくなっています。
また、せっかく新規客を獲得しても、それがリピーターとして定着しなければ大きな儲けにつながりません。リピーターとして定着してもらうためには、利用して満足してもらうことが必要です。さらに、リピーターが定着しない製品・サービスを繰り返していると、提供元としての信用を失い、営業戦略が意味を持たなくなってしまいます。新規客を狙った営業戦略においても “顧客満足” を見据えた品質戦略が必要なのです。
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ベネフィットと顧客満足と顧客価値の関係
営業が注力する「未来の満足(イメージ)」と品質が注力する「本当の満足(現実)」の “満足” は、どちらも顧客価値に直結します。
顧客価値とは、顧客が「対価を払う価値がある」と感じられる効果です。重要なのは《顧客が感じる》という点です。提供側がいくら「効果がある」「便利だ」と思っても意味がありません。お客様がどう感じるかが重要なのです。
営業部門は、お客様が効果(ベネフィット)を感じてくれそうな広告を打ちます。品質部門は、本当にお客様の役に立ったか(満足したか)を確認します。どちらも《顧客価値》を追究していることに変わりありません。
営業戦略は「未来のイメージ」であり、品質戦略は「現在の実態」です。考える範囲が異なるので相容れないことが多くありますが、顧客価値という点でつながっています。その関係のイメージが下の図です。
ベネフィットは顧客価値(バリュー)の一つです。顧客価値が期待を上回ると顧客満足(CS)が高まります。品質戦略に関係しているISO9001は営業について明確には触れていませんが、裏では密接に関係しているのです。
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ISO9001における顧客満足の扱い
ISO9000(JISQ9000:2015)では、「顧客満足」を次のように定義しています。
3.9.2 顧客満足(customer satisfaction)
顧客の期待が満たされている程度に関する顧客の受け止め方.
簡潔な言い方ですが、その注記に興味深いことが書かれています。長文なので要約します。
注記1 顧客の期待が明確に示されていない場合でも、これらを満たす(顧客満足を満たす)ことが必要なことがある.
注記2 苦情がないことが必ずしも顧客満足が高いことを意味するわけではない.
注記3 顧客と合意したことを満たしていても、それが必ずしも顧客満足が高いことを保証するものではない.
つまり、顧客が何も言わなくても満足しているとは限らないということです。言い方を変えると、満足・不満足をはっきり言わない顧客がいます。顧客の満足・不満足は、言ってくるのを待っているのではなく、こちらから積極的に聞きに行くことが必要です。CS調査はとても難しく手間がかかるものなのです。
ISO9001(JISQ9001:2015)では、顧客満足について次のように取り組むことを求めています。
・顧客満足に関わることはすべてISO9001の対象範囲とする
・顧客満足の向上を重視することを社内に徹底する
・顧客満足に影響を及ぼすリスクに備える
・顧客満足に関する目標と計画を策定する
・顧客満足の状況を監視し、測定し、分析する
・顧客満足の状況を経営トップに報告する
・顧客満足の改善に取り組む
これは、マネジメントレベルのPDCAサイクルですね。ISO9001は、会社や組織として顧客満足の向上に取り組むように求めているのです。ISO9001は、顧客満足の向上を目的として作られたものです。
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