改良・改善・改革

今回は、ISO9001で頻出する【改善】という言葉に関する話題です。
“改善” とは、悪い点を正して良い状態にするという意味ですね。似た言葉に “改良” や “改革” があります。いずれも『改めてよくする』という意味ですが、改良・改善・改革にはどんな違いがあるでしょうか?

言葉の意味は辞書を引けば載っています。しかし、辞書は編纂者の捉え方や解釈によってそれぞれ語釈が違います。
  辞書の語釈については、記事『映画「恋は光」が面白い』参照。
また、言葉の定義は時代や使われる場によって様々に異なります。
  言葉の定義については、記事『定義中毒に気を付けよう!』参照。

大切なのは、同じ言葉でも人それぞれ異なるイメージを持っていることを認識することと、そのイメージを共有することです。今回は、改良・改善・改革や、その他の言葉に対する私のイメージをお伝えしたいと思います。

改良・改善・改革という3つの言葉に共通する “” は、改める(あらためる)ことであり、「状態をこれまでと変える」という意味です。
良 と 善 は、どちらも「よい」という意味ですが、以下のようなイメージの違いがあります。
” :《好ましい》というイメージ。「いいね!」や「グッジョブ」です。
” :《道徳的・倫理的》なイメージ。「善人」や「善行」などです。
” は、生き物の皮のことです。皮は元々はゴワゴワして臭いものですが、鞣す(なめす)ことで革製品として利用できるようになります。ですので、劇的に変わる場合に “革” を用います。「革新」や「革命」など。

ですので私は、改良・改善・改革について次の様なイメージを持っています。
改良:製品や部品など、今でもまぁまぁ良い物に手を加えることでさらに良くする
改善:環境ややり方などに内在する問題を解決して、良い状態にする。
改革:制度や文化など組織的・構造的な仕組みを、根本的に大きく変える

“変える” という意味の言葉は他にもいろいろあります。例えば、”改良” がまぁまぁ良い物をさらに良くすることなのに対して、元々悪い物を良くすることを “修正” と言います。また、”改革” よりももっと劇的な変化を “変革” と言います。これらをまとめたものが下の表です。

次は、日本語の「修正・改良・改善・改革・変革」に近いと考えられる英単語についてみてみましょう。私は英語に詳しくありませんが、AIの力を借りて調べてみました。
日本語の言葉と英単語は一対一に対応しているわけではありませんが、おおむね下のような感じだと思います。

日本語読みにすると聞いたことがあるワードが多いですね。
・私は長らくIT業界にいて、フィックス、リファイン、エンハンスは聞き慣れていました。
・リフォームは、住宅の修繕という意味で日本に定着していますね。
・トランスフォームは、アニメや映画の「トランスフォーマー」や、経済界や政府が推進している「デジタル トランスフォーメーション(DX)」という言葉を聞いたことがある人もいると思います。
・イノベートは、「イノベーション」という経営用語を近ごろ頻繁に耳にします。また、私は「機動戦士ガンダムOO(ダブルオー)」に出てくるイノベーター(変革者)が強く印象に残っています。

一方、「インプルーブ」は、日本ではあまり馴染みがありません。英語を話す人はImproveを普通に使うと思いますが..
インプルーブが日本であまり聞かれない理由をCopitotで調べてみると次のようなことが書いてありました。
 ①語感が日本語に馴染まない
 ②意味が広すぎて対応する日本語を絞れない
 ③日常語として「改善」が定着している

日本語としては定着していない「インプルーブ」ですが、ISO9001には「Improve/Improvement」がとてもよく出てきます。ISO9001の日本語訳であるJISQ9001にある 改善” は、すべて「Improve/Improvement」を訳したものです。

ISO9001を日本語で学び始めると、JISQ9001の “改善” を上述の【改善】というイメージでとらえてしまいがちですが、実は JISQ9001の “改善” は、英単語の「Improve/Improvement」のことであり、日本語から受ける【改善】のイメージよりもかなり広い意味です。
実際、ISO9001(JISQ9001)には、 “改善” について注記で補足しています。

10.改善
10.1 一般
  ~
注記 改善には、例えば、修正是正処置継続的な取り組み現状を打破する変更革新及び組織再編が含まれ得る.

つまり、ISO9001(JISQ9001)の “改善” には、本記事の冒頭の【改善】だけでなく、【修理】から【変革】までのこと全てが含まれているのです。このことをよく認識しておいてください、「たかが注記..」と侮ってはなりません。

ISO9001が広い意味の “改善” 中心の取り組みであるのに対して、経営品質は “変革” の取り組みです。常に組織を変革し続けることが求められています。 関連記事:『いろいろな「品質」、2つの「品質管理」

最後に、今回の記事に関する別の話題をもう一つ。
“良” や “善” の反対である “悪” についてです。「品質が良い/悪い」「善人/悪人」の “悪” です。

私が学生の時、日本史で「悪党」というものを習いました。確か、鎌倉時代末期~室町時代初期の出来事で、幕府や領主などの支配層に反抗した武士や農民の集団のことだったと思います。当時の私は、”悪” という語句にとても違和感があったことを憶えています。支配層から見れば、彼らは「反抗する者」「秩序を乱す者」として “悪” なのでしょう。

「秩序を乱す」とは、言い換えれば「これまでと違うことをする、他者と違うことをする」ということです。しかし、特に現代においては「これまでと違うこと、他者と違うこと」が成功の条件だと言われています。つまり、「今までと同じこと/みんなと同じこと」では競争に勝てないのです。

例えば、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブスは、これまでにとらわれない発想で全く新しい価値を生み出してきました。彼らは「アウトロー」であり「イノベーター」と言えます。日本の歴史で言えば「悪党」です。悪党が世界を変えて新しい価値を生み出すのです。

とは言え、私は皆さんに「イノベーターや悪党になれ」と言っているのではありません。しかし、これまでのやり方や枠組みの心地よさにとらわれ、流されてばかりいては進歩しません。常に変化すること( “改善” すること)を忘れないでください。

そして、今よりも良いやり方がある時には、率先して変化を受け入れましょう。
組織には変化を嫌う人間が必ずいます。ルールを変えることを頑なに拒む人がいます。「これまでうまくいっていたのだから変える必要はない」と言い張る人が出てきます。そんな時は、自ら手本となって率先して変化を実践し、効果を実証しましょう。

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