最近、日本国内では「経済効果」という言葉がテレビやネットを賑わせています。
過去記事『データにだまされるな(2) 印象操作』において、”ちょっとカッコイイ言葉” の例として経済効果について少し触れましたが、今回はこれについてもう少し詳しく述べたいと思います。
まず、おさらいです。前の記事で
「経済効果とは、範囲を限定した中での効果なのです。経済効果のニュースを聞いたら、どの範囲でのことなのかを気にしましょう」
と述べました。例えば、大谷選手関連の売上げが絶好調である裏には他の選手が不調であり、好調と不調を合わせたトータルでみればほとんど変化はありません。つまり “経済効果” とは、環境の変化によってお金が移動することであり、プラスの経済効果の裏には必ずどこかにマイナスの経済効果があります。逆も然り(マイナスの経済効果の裏にプラスの経済効果あり)です。

–
2025年11月7日の国会(衆議院予算委員会)において、高市首相が「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」と発言しました。これは「日本が集団的自衛権を行使する可能性がある」ということを示唆しています。これに対して中国政府が強く反発して自国民に対して日本への渡航注意喚起を呼びかけました。「日本へ行くのを控えなさい」という注意喚起ですが、中国人にとっては事実上の渡航中止命令に近いと思っています。
これにより中国からのツアーを中心に、ホテルや飛行機のキャンセルが相次いでいて、日本経済への影響が懸念されています。この時、日本のシンクタンクと呼ばれる組織が一斉に経済損失の試算を発表しました。主なものは、
野村総合研究所(1.7兆円)、日本総合研究所(1.2兆円)、大和総研(GDP 0.1~0.4%)など
これを聞いて、多くの日本人が「大変だ!」と感じたのではないでしょうか。
しかし、これらの値はすべて「キャンセルされて、キャンセル料が取れず、空席や空室が全く埋まらなかった場合」の値です。しかし、通常(ホテルや飛行機に限らず)人気のあるものは、キャンセルが出れば直ぐに別の予約が入ります。直前のキャンセルであればキャンセル料を徴収できます。上記のシンクタンクが発表した経済損失額とは、減る値を単純にかき集めたものであり、それを防いだり解消したり補填した時の値が全く含まれていないのです。つまり、マイナスの経済効果だけの数値であり、プラスの経済効果が含まれていない値なのです。
昨今、京都をはじめとした国内の有名観光地ではオーバーツーリズムが大きな問題になっています。外国人環境客の急激な増加によって、地域住民の生活にまで影響が出ています。また、あまりの混雑ぶりに日本人も含めて多くの観光客が訪れるのを諦めるという事態になっています。ですので、中国人観光客がキャンセルしたとしても、空いた枠は直ぐに別の予約(諦めていた人たち)で埋まると推測できます。また、オーバーツーリズムも少し改善したのではないでしょうか? その経済効果も大きいと思います。よって、シンクタンクが言うほど深刻な状態ではないと私は考えています。

むしろ、ネガティブな部分だけを発表して不安を煽るシンクタンクの動きが私には理解できません。まるで、恐怖心や猜疑心を刺激して再生回数を稼ごうとしている《煽り系YouTuber》のようです。
“経済効果” と聞いたらまず疑ってみましょう。得意そうに「経済効果は約○円」と掲げている “なんちゃって専門家” を信じるのは危険です。
–
もちろん、今回の日本渡航自粛を受けて影響を受ける会社や地域はあります。中国からの団体客に依存している旅行代理店やホテルなどは直撃を受けるでしょう。また、雇用や財政面でそれらに強く依存している市町村も大きな影響を受けると思います。しかし、経営品質からみれば、一つに強く依存する企業体質や経営戦略が大きなリスクを伴うことは明らかです。一つに依存していると、そこで何かあった時に取り返しがつかなくなる恐れがあるからです。調達先・販売先・投資先など外部とのチャネルは複数用意してリスクを分散するのがセオリーです。
ですので、今回の騒動で影響を受けているところは「経営失敗」と言われても仕方がないと思っています。高市首相の責任を問う前に、自身の経営失敗を反省して、経営スタイルを変えることが必要なのではないでしょうか。
–
以上、最近よく耳にする「経済効果」に関連するお話でした。
・「経済効果」の数値は偏った見方。惑わされないで!
・一極集中はリスク大。多様化戦略でリスク分散を!
コメント