紅糀事件と自動車認証不正事件を考える

 紅糀サプリ事件と自動車認証不正事件が連日報道されています。報道を見ている人の中には、「CMでよく見る会社が何か悪い事をした」くらいにしか感じていない方も多いと思います。そして、この2つの事件が同じようなものだと思っている人もいると思います。確かに、どちらの会社も「人命に関わるものを提供している」という点では共通しています。しかし、この2つの事件は性質がまったく違います。その違いをまとめたものが下の表です。

 この表から、次の2つのことが言えます。
  (1) プロセス(申請や報告など)に不正・不備がなくても、実害があれば問題になる。
  (2) 実害がなくても、プロセス(申請や報告など)に不正・不備があれば問題になる。
 つまり、プロセスと実害のどちらか一方がまずくても問題になるのです。
“認証” はプロセスの一種であり、実害を発生させないための防衛手段の一つです。”認証不正” とは認証行為に不正があったということで、実害を発生させないための防衛手段に不備があるかも知れないということです。防衛手段に不備があるということは、「発覚していない不具合が潜んでいるかも知れない」あるいは「これから問題が起きるかも知れない」ということです。ですので、たとえ実害が見えていなくても、”認証不正” は問題になるのです。

(2)は、経営に関する用語《フェアプロセス》に通じます。フェアプロセスとは、「たとえ相手にとって良い事でも、結論だけを伝えるのではなく、それが正しい経緯(フェアプロセス)の結果であることを説明する必要がある。」という意味の言葉です。元々は従業員とのコミュニケーションに関する言葉ですが、「結果だけでなく経緯(プロセス)も大切」という教えは “認証” も同じです。このことは、ISO9001認証でもまったく同じことが言えます。


 以下、2つの事件について品質管理の観点から見ていきます。

 紅糀サプリ事件における品質管理上の最大の問題は、「有害なものが混入するかも知れない」という危険性に対するリスク管理です。メーカーとして「混入するかも知れない」という認識はあったのかも知れませんが、「どういう影響があるか」ということまで慎重に考えていなかったのかも知れません。
 もう一つの問題として考えられるのは、会社の技術力です。有害物質に関する知識やそれを検出する技術が不足していたのかも知れません。これら〈リスク管理の問題〉と〈技術力の問題〉を踏まえて、これからこの会社がどう変わっていくのか注目したいと思います。

 さらに最悪だったのは、人の健康に影響を及ぼすものであるにも関わらず、安全確認の最後の砦である国の検査が行われていないことです。つまり「機能性表示食品」制度の問題です。これについてはすでにいろいろと報道されているので説明を割愛します。

 自動車認証不正事件における品質管理上の問題点は、何といってもルール違反です。意図的に検査方法や測定データを変えた背景には、次の3つの企業体質があったのではないかと推測します。
 (1) 顧客重視ではなく自己都合 … 作業を楽にしたい・利益を上げたいという意識
 (2)《大は小を兼ねる》という認識 …「より厳しい基準でやったから問題ない」という言い訳
 (3)《終わりよければすべてよし》という認識 …「問題は起きてないから大丈夫」という言い訳

(2)(3)は大した問題ではないと思うかも知れませんが、実は大きな問題です。こういう言い訳を続けていると、徐々に問題意識が薄くなって「楽な方へ楽な方へ」と考えるようになり、やがて暴発して大惨事を起こす危険があるからです。「決められた方法をずっと守れ!」ということではありません。作業を楽にしたい・利益を上げたいと考えることが悪い訳でもありません。お客様の不利益にならず自分たちにも有益であればルールを変えるべきです。しかし、ルールを変える際には手順(検証と合意)を踏んで行う必要があります。最悪なのは、個人が自分の都合で勝手にルールを曲解することです。そのような組織には怖くて仕事を頼めませんね。つまり、認証は与えられません。
 今後、不正に関わったメーカーが信頼を回復して生産を再開する際には、単に「チェック体制を強化する」「社内ルールを見直す」といった表面的な対策だけでなく、上記の(1)~(3)のような社風や企業文化をどう変えていくかも考えて欲しいと思います。

 ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)によれば、1件の重大事故の裏には、29件の小さな事故があり、その裏には事故にはなっていないがヒヤリとしたことが300件あるそうです。ルール違反は、いわばこのヒヤリです。これが積み重なると、やがて大事故を起こす危険性が高いのです。紅糀サプリ事件おいても、死者を出した大事件の裏には、29件の小さな事故と、300件のヒヤリが隠れていたのかも知れません。その時点で対策を講じていれば、今回の惨事は起きなかったかも知れません。

 無秩序はさらに深刻な無秩序の呼び水となります。つまり、無秩序を繰り返していると、やがて全体が無秩序になってしまうのです。このことは、1990年台のニューヨーク市警の犯罪対策が証明しています。当時のニューヨーク市は、重罪犯罪が頻発していて無秩序としか言いようのない状態でした。しかし、ある施策によって重罪犯罪が劇的に減少しました。施策とは、①地下鉄の落書きを消す ②無賃乗車を厳しく取り締まる の2つです。つまり、地下鉄内の軽犯罪を取り締まることで、ニューヨーク市全体の秩序を改善することができたのです。このように、小さな問題を潰していくことは、大きな秩序を保つことにつながります。今回の2つの事件は、「大問題を起こさないためには小さな問題を地道に潰していくことが大切」という教訓だと思っています。

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