手当について考える -品質の視点で-

「手当」とは、正規の給与以外に支払われる賃金のことで、法律で義務付けられているものから会社独自のものまで様々なものがあります。品質に直接関わるものではありませんが、社員のモチベーションに関わるものなので全く無関係というわけではありません。そこで今回は、「手当」について、少し広い視野(品質の視点)でお話します。

 私は、会社から支給される手当は大きく次の2種類に分けられると思っています。
 (1) 従業員の労働に報いるもの(労働報酬)。例えば、残業手当(時間外、休日、深夜)。
    もらえるのが当然の手当です。品質に置き換えると《当たり前品質》です。
 (2) 従業員を集めて、引き留めるためのもの。例えば、通勤手当、住宅手当、家族手当。
    もらえると嬉しい手当です。品質に置き換えると《魅力的品質》です。
     ※ 《当たり前品質》と《魅力的品質》については、最後に補足を載せておきます。

 以下、(1)の代表として [残業手当]、(2)の代表として [通勤手当] について述べます。

1.残業手当について
 残業手当は、所定労働時間を超えて働いたことに対する賃金です。法律で、通常の賃金よりも割り増しすることが義務付けられています。
 プライベートの時間が削られるほどの長時間残業は困りますが、中には収入を増やすために残業したがる人もいます。実際、「長時間残業したら、収入が増えたのと、使う時間がなかったので貯金が増えた」という話はよく聞きます。就活中の方は、残業&収入とワークライフバランスを考えて就職先を選ぶとよいでしょう。就業時間後に遊んでばかりいてお金を使うより、働いて貯金を増やした方がよいかもしれません。もちろん、仕事がないのに残業する(したふりをする)ことは許されません。
 働いた分は報告してきちんと手当をもらいましょう。残業したのに残業扱いにさせないようなブラックな会社は早めに見限りましょう。それが、自分のためでもあり社会のためです。中には、自らの意志で残業扱いにしない(残業申告しない)人もいます。おそらく、「仕事が遅いと思われたくない」「申告が面倒」「会社のため」などの理由だと思いますが、それは自己都合や自己満足です。会社として実績把握・計画・指示などの統制がうまくできなくなるので慎みましょう。また自身としても、それを続けていると自分に甘くなり良くない方法に流されていきます。社会人として決められたことは守りましょう。また、エンジニアとしてきちんと記録を採る癖をつけましょう。

2.通勤手当について
 就活中の人の中には、その会社が通勤手当を支給するのか気になる人もいると思います。「通勤手当も出さないようなブラック企業はやめておけ」と教える人もいます。しかし、少し見方を変えて考えてみてください。通勤手当の財源は何でしょうか?
「通勤手当を出します」と言っても、何もないところからポッとお金が出てくるわけではありません。結局、会社の儲けから出るのです。会社の儲けは社員の給与に直結します。つまり、通勤手当を出すということは、社員の給与を少しずつ削るということなのです。極端な話、近距離通勤の人は遠距離通勤の人(通勤手当を多くもらっている人)より損をしていると言えます。不公平だと思いませんか? では、この不公正をなくすにはどうしたらいいでしょうか? その解決策の一つが「通勤手当を出さない」ことです。「働きに対して報酬を払うのだから通勤費用は自己負担。それが嫌ならもっと近い職場を探しなさい」という考え方です。ちょっと冷たい言い方ですが、そういう考え方もあります。アメリカでは通勤費が出ないのが普通のようですが、そういうドライな文化があるからなのでしょう。
「通勤手当を出さない会社はブラック企業」と短絡的に考えるのではなく、「それも含めた給与額であり、公平な雇用条件」と考えましょう。
 現在通勤手当をもらっている人は、「通勤手当を出してでも雇いたいと思われている」と考えれば嬉しくなるでしょう。雇いたいと思われている人の給与が高いのは市場原理です。

 働き方と市場原理の話題をもう一つ挙げます。
 同じ会社であっても、都会の本社と地方支社とでは給与額が違うことが多いと思います。会社は「都会は物価が高いから」と言いますが私は違うと思っています。なぜなら、地方の方が価格が高いものも多いからです。例えば、都会はバスも電車も本数が多く料金も安いですが、地方は本数が少なく料金も高いです。飛行機の路線もそうです。ガソリンの価格も違います。コンサートや美術館に行くにしても地方は少ないのでわざわざ都会に行きます。このように、地方の方が不便で、お金がかかることも多いのです。
 では、なぜ都会と地方とで支給額が違うのでしょうか? それも市場原理だと私は思っています。都会は地方に比べて仕事がたくさんあります。したがって、その仕事をこなす社員もたくさん必要です。つまり人を集めなければなりません。人を集めるもっとも簡単な方法は、給与を上げることです。需要(求人)が多くて供給(求職者)が少なければ価格は上がります。これが都会です。逆に、需要が少なくて供給が多ければ価格は下がります。これが今の地方です。
 就活の際は、希望する業種と勤務地において需要と供給がどうなっているのか知ることが大切です。そして、自分の働き方に合っていて、自分のことを雇いたいと思ってくれそうな会社を探しましょう。もちろん、雇いたいと思える人間になることが大前提です。


 見方を少し変えてみて世界が変わってきませんか? 目の前のことにとらわれずに別の視点で見てみると、新しい発見があるかもしれません。例えば、会社や、自分と違った境遇の社員の立場になって考えてみることも大切です。
 ISO9001は、働く人々が品質に関する会社の方針と目標について認識を持つことを求めています。会社の方針や目標を理解して、それに向けて自分が何をすべきかを考えることは、品質に限らず極めて重要なことです。

「第六回 当たり前品質、魅力的品質」補足ページ
「第三七回 認識」補足ページ

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