人の寿命、製品の寿命、商品の寿命

 ノートパソコンが壊れました。使用中に突然キーボードが反応しなくなり、再起動すると画面が消えたあと立ち上がりません。起動ボタンを長押ししても反応がありません。パソコンに詳しい家族に助けを求めると、バッテリーパックを外して電源コードだけで起動し、ようやく立ち上がりました。システムログを見たところ(私にはチンプンカンプン)、家族曰く「電源系統のエラーが出ている。寿命だね。買い替えた方がいいよ」と言われ、そろそろWindows11への切り替えも気になっていたので買い換えました。さらに追い打ちをかけるように、温風ヒーターのボイラーも壊れました。修理を依頼したところ、またまた「そろそろ寿命ですね」..
そこで今回は、”寿命” について考えてみたいと思います。

 製品には必ず寿命があります。使っているうちに、摩耗や劣化や汚れなどによって正常に動かなくなってしまいます。もちろんパソコンにも寿命があります。よく「ソフトには寿命がない」と言われますが、確かにソフトは実態がないので摩耗や劣化はありませんが、ソフトを入れておく媒体や動かす装置は劣化したり汚れたりします。ディスクも基盤も劣化(変質やサビ)します。特に電子基盤は繊細な装置なので、さび、ほこり、すすなどで異常が起きやすいものです。最近の家電はほとんど電子基板が使われているので、基盤の劣化による故障がよくあります。

 実は、寿命には明確な定義がありません。そのため、その時々でいろいろな使われ方をします。例えば人間でいうと「平均寿命」が一般的ですが、実は「平均寿命」の定義は『0歳児の平均余命』です。つまり、”その年に生まれた子供が何歳まで生きられるか” をシミュレーションした予測値です。シミュレーションの精度がどれくらいなのかわかりませんが、予測値というは驚きですね。
 一方、”その年に死んだ人の年齢の平均” という考え方もあります。私も最近までそう思っていました。これなら、予測ではなく実績に基づいているので信憑性がありますね。しかし、数学的には問題があります。仮に、その年に死んだ人がいなかったら求められません。そんなことはあり得ませんが数学的にはそうなります。

 平均寿命は『0歳児の平均余命』なので、「自分はあと何年生きられるか」はわかりません。それを知りたい方は、年齢ごとの “平均余命” が厚生労働省から公開されているのでそちらをご覧ください。

 平均寿命も平均余命も、私たちが普段イメージする “寿命” とは違います。なぜなら、これらの数値は死亡原因を問わないならです。例えば、交通事故や災害によって亡くなった人も含まれています。2020-2022に平均寿命が下がったのは新型コロナの影響があったためと思われます。でも、私たちが普段 “寿命・余命” と聞いてイメージするのは、突発的なことは含みませんね。「これから何事もなければ..」の値でしょう。そう考えると、平均寿命の計算対象にするのは、老衰で亡くなった人だけの方が近いような気がします。

 前述の “老衰” の考え方は、実は製品寿命を考える際にも大きく関わってきます。製品寿命を考えるときは「通常の使用方法において」を想定しますね。劣悪な環境において寿命が短くなるのは当たり前です。乱暴な扱い方をして壊れても「寿命だ」とは言わないでしょう。このように、製品寿命の場合は、原因(死因)も考慮するのです。

 また、製品寿命の場合は〈故障と修理〉の考え方も影響します。製品は使い続ければ必ず故障し、多くの場合修理して使い続けます。この時、故障したタイミングを寿命と考えるのか、修理を繰り返してきたが修理できなくなったタイミングを寿命と考えるのかによって寿命の考え方が違います。人の場合、病気になれば治療して命を長らえますね。いわば、故障と修理を繰り返します。そして、手を尽くしてもダメだったとき永眠します。そう考えると、製品寿命も、修理し尽くした後のことと考えた方がよさそうです。
 仮に、修理できない理由が〈交換部品の製造停止〉だとすると、製品寿命は製品の質によって決まるのではなく、交換部品の製造停止時期というメーカー側の都合によって決まることになります。

 さらに、バージョンアップや頻繁に買い替える製品では寿命をどう考えればよいでしょうか。ソフトウェア(アプリ)は頻繁にバージョンアップしますね。スマホや自動車など、まだ十分に使えるのに頻繁に買い替える人もいます。彼らは寿命をどう考えているのでしょうか。
 1つは、同じものを使い続けていると環境の変化について対応できないからです。いわゆる「時代遅れ」です。時代遅れは、機能的な劣化といえるかも知れません。
 もう一つは、生き方やステータスです。いつも最新のものを手に入れることを信条としている人たちです。彼らにとっては、新製品が出た瞬間に「旧世代は寿命が尽きた」と考えるのでしょう。

 製品寿命とは別に、商品寿命というものも考えられます。”商品寿命” は私が勝手に付けた名前なので、検索しても出てきません。一般的には製品ライフスタイルの衰退期の製品のことです。すなわち、売れなくなった商品です。需要がなくなった時を「商品としての寿命」と言ってよいのではないでしょうか。商品寿命は〈売り手目線〉、製品寿命は〈買い手目線〉と言えます。

 以上、今回は “寿命” について考えてみました。寿命にはいろいろな考え方があります。人とモノでは考え方が違います。モノでも、製品と商品にそれぞれの寿命があります。また、買い手が考える寿命は、人それぞれ感じ方が違います。

「第二十四回 故障と不良」補足ページ

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