品質管理においてデータはとても大切なものですが、データが意味することを見誤ると大変なことになることがあります。今回は、その一つとして「印象操作」についてお話します。
印象操作とは、情報を伝える際に意図的に一部を伏せたり強調したり見せ方を変えることによって、受ける側の感じる印象を操作して、発信する側が狙った方向に受ける側の行動を誘導することです。例えば、「980円」とか「3,980円」などの切りの悪い価格設定(大台割れ価格)は、「1,000円」とか「4,000円」という大台よりも安い印象を与えて購買意欲を刺激するテクニックです。
品質に関わる人は、データが意味することを正しくとらえる力を身に付けるため、日頃からこのような印象操作に惑わされない訓練が必要です。特に注意して欲しいことを3点挙げますので、自分が印象操作されていないが確認してみてください。
(1) 聞き心地の良い言葉に惑わされるな!
具体的には、「とても」や「かなり」など、好印象を与える抽象的な言葉です。直接の数値データではないですが、データの印象を左右する言葉なので準データとして取り上げます。
「とても大きい」「かなり早い」「激安」「効率良く」「効果的に」などは、一般消費者には聞き心地が良いためCMやチラシなど広告の世界ではとても多く使われていますが、品質の世界やビジネスの世界では抽象的な表現を避けて具体的な数値で示すことが鉄則です。抽象的な言葉を使っているものを “うさん臭く” 感じるくらいになりましょう。
また、ちょっとカッコイイ言葉にも気を付けましょう。正しい意味を知らずに「何となくカッコイイな」と思っていると、印象操作に引っ掛かります。例として、「経済効果」という言葉を取り上げます。ちょっと聞くと「経済活動に好影響を与えているから自分にも恩恵がある」かのような印象を受けますが、そんなことはありません。例えば「大谷翔平選手の経済効果は..」などがよく話題になりますが、大谷選手関連の経済(グッズ販売など)が絶好調である裏には、他の選手に関する経済が不調なのです。ドジャーズが好調であれば他球団が不調、野球人気が好調であれば他のスポーツ(例えばサッカー人気)が不調なのです。そして、好調と不調を合わせたトータルでみればほとんど変化はありません。つまり、経済効果とは、範囲を限定した中での効果なのです。経済効果のニュースを聞いたら、どの範囲でのことなのかを気にしましょう。
(2) 大きな数値に惑わされるな!
具体的な数値であっても、その大きさに意味があるのか見極める必要があります。例えば、「善玉菌1兆個」「販売累計10万個突破」などです。一見すると「そんなに! すごい!」と感じるかも知れませんが、大きさに惑わされてはいけません。他の商品は善玉菌2兆個かも知れません。9000億個でも大した差ではありません。そもそも善玉菌が多くて人体にどんな影響(効果や害)があるのか分かりません。カフェインやアルコールは少量であれば益になりますが、摂り過ぎれば死に至ります。重要なのは数の大きさではなく、それがもたらす意味(効果や害など)です。
広告だけでなく品質管理やビジネスでも同様です。大きい数値の報告や提案があったら、数値の大きさに関心を持つ前に、その意味やそれがもたらす結果について考えましょう。
特に品質管理の場合は、小さな数値も要注意です。不良の数やクレームの数が突然小さくなったら、喜ぶ前に「何か変だ」と思いましょう。
(3) スケール操作に惑わされるな!
これは、棒グラフや折れ線グラフで時々起こります。何かを比較したグラフや推移を表すグラフなどで、一見すると大きな差や急激な変化があるように見えても、スケールを変えると実は些細な変化だった、ということがよくあります。下図参照。
グラフを作成する際、見栄えを良くしたり変化を際立たせるために、スケールを操作する(特に原点を変える)ことがあります。それに惑わされないように注意しましょう。逆に、グラフを作成する立場の時は、見栄えを良くすること以前に、何を伝えたいのかをよく考えた上でそれに合ったスケール設定にするよう心掛けましょう。
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今回の話題は、下記の書籍を参考にしています。「平均」のように普段私たちが当たり前のように使っている言葉や「経済効果」などよく耳にする言葉の詳しい意味、統計数字を見る際の注意点などを、具体例を示しながら分かりやすく解説しています。とても気づきが多い本です。
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