先日、自動車を運転していて事故を起こしそうになりました。今回は、その時の教訓をお話したいと思います。
平日の晴れた日でした。妻と一緒にスーパーマーケットへ買い物に行きました。その店は、自転車も通ることができる広い歩道に面しており、大人の背丈より少し低い高さの生垣に囲まれています。駐車場へはその歩道を渡って出入りします。
生垣があるため見通しが悪く、特に通勤・通学の自転車がかなりのスピードで走ってきて何度も怖い経験をしたため、いつも恐る恐る慎重に出入りしていました。バッグミラーや車体フレームの死角にも注意して、身を乗り出して左右を確認していました。
その日も、買い物が終わって駐車場から車道へ出るために、ゆっくりと慎重に歩道を横切ろうとしました。「歩行者はいない。自転車も走っていない。車道の列が途切れた。今だ!」と思って前へ出ようとしたとき、「危ない!!」と妻が叫びました。慌ててブレーキを踏み、停車して前方をよく見てみると、自転車にまたがったまま固まっているお婆さんが驚いた顔でこちらを睨んでいました。幸いにも接触しておらず、お婆さんも転倒することなく、やがてゆっくりと走り去っていきましたが、私はしばらく動悸が収まりませんでした。あのお婆さんはさぞかし驚いたことでしょう。ごめんなさい。事故にならずに本当に良かった。
落ち着いてからさっきの出来事を振り返り、慎重に運転していたのに何故あのようなことになったのか考えてみました。
原因はいくつか考えられますが、主なものは次の2つだと思います。
1.思い込み
「自転車は猛スピードで走ってくる」と思い込んでいた結果、ゆっくり走ってくる自転車が目に入らなかったのだと思います。正確には、目には入っていたのに、それを脳が視覚として認識しなかったのだと思います。
人間は、目から入ってくる情報をすべて認識するわけではありません。見る気がないものは見えていても脳が処理しないのです。例えば、道を歩いている時、足元の小石や雑草やアリの行列などをいちいち気にしていませんね。「あの仕事どうしよう」とか「どこでランチしようか」などと考えていて、目の前のことに意識が向いていないのではないでしょうか? だから、石につまずいたり、花やアリを踏んだりするのです。
人間の視覚は『見ようとしなければ見えない』ものなのです。
あの時の私は、「自転車は猛スピードで走ってくる」と思い込んでいたのだと思います。だから、ゆっくり走ってくる自転車のことが意識から消えていたのでしょう。
このような《見えているのに意識から消える》ことによる事故はかなり多いようです。見通しの良い交差点を右折しようとする車が、横断中の歩行者や自転車をはねてしまう事故です。この時の運転手は、直進してくる対向車にばかり意識が向いていて(いつ途切れるかを気にしていて)、歩行者や自転車が意識から消えているのです。
これを防ぐにはどうすればいいでしょうか? 一般的には、”2段階徐行” や “指差し確認(声出し確認)” が有効と言われています。「対向車よし、歩行者よし」です。しかし、想定外のことの場合にはどうすればよいでしょうか? 今回の事例で言えば、「車よし、歩行者よし、自転車(高速)よし」は行っていました。低速自転車は想定外でした。
今回の教訓により「低速自転車よし」を心のチェックリストに追加することにしました。こうして、想定外の事故やヒヤリハットが起きる度にチェックリストが徐々に膨れ上がっていきます。これは、品質管理としてごく普通な流れです。
2.錯覚
今回の事例では、『保護色』と『コリジョンコース現象』も関係していると考えています。
葉が赤っぽい低樹木の生垣だったのですが、お婆さんの服装は同系色で細かい柄モノでした。ですので、生垣と服装が同化してちょっと目には見分けにくい状態でした。
「コリジョンコース現象」とは、田んぼ道などの見通しのよい交差点で、横から同じ速度で走ってきた車同士が出合い頭に衝突してしまう現象です。これは、互いに同じ速度で向かっている時に、相手が常に同じ角度(視界の同じ位置)にあるため動いているように感じないことで起きます。人間の目(脳)は、動いているものは認識しやすいのですが、視界の中で位置が変わらないものは止まっている(背景の一部)と勘違いしやすいのです。
今回は、慎重に前進する車とお婆さんが乗る自転車の速度が同じだったのと、さらに背後の生垣の色・柄と同化していたために、動いているものがあるように見えなかったのだと思います。
これを防ぐためには、視線をずらすことが有効だと言われています。体を上下左右に動かして見る向きを少し変えるのです。視線を少しずらすだけで対象の輪郭が少し明確になって、存在を認識しやすくなります。
今回の教訓により、安全確認では身を乗り出して左右を確認するだけでなく、上下左右にも体を動かして視線をずらすように心がけています。

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以上、交通事故のヒヤリハットから、「見ようとしなければ見えない、見ているものが正しいとは限らない」という教訓についてお話しました。このことは品質の世界でも言えることです。
・「大丈夫だろう」と思って見ていると、問題があることに気がつきません。
・いつも同じ角度から見ていると、慣れてしまってわずかな変化に気がつきません。
物事をいつも様々な視点で捉え、あらゆる可能性を考え、わずかな変化にも心を配りましょう。
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最後に、今回の事件を踏まえてもう一つ対策をとることにしました。それは、見通しの悪い出入り口を使わずに、少し遠回りですが見通しの良い別の出入り口を使うようにしたのです。交通事故を起こさない究極のリスク対策は “運転しないこと” ですが、それが無理なので少しでもリスクを小さくするために見通しが悪い出入口を避けるようにしました。
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