AIに仕事を任せた時の品質問題

今回は、品質担当者の視点で、「AIの品質問題」について考えてみます。

まず、AIが無い場合を考えてみましょう。人間が行う作業の品質(良し悪し)をどうやって判断しますか?
真っ先に思い当たるのは、結果の出来栄えの確認ですね。例えば、製造現場で言えば出荷検査です。ですが、毎回毎回すべての製品を検査するのはかなり困難です。そこで、「結果を確認するだけでは品質を保証出来ない。品質を保証するためには、やり方を確認することが必要だ」という考えが生まれました。『たまたま良い結果が出たとしても次は悪いかも知れない。それでは、毎回毎回結果を確認する必要がある。しかし、いつも同じやり方でやっていれば次の結果も良い結果を生むはずだ』という考え方です。つまり、やり方の適切性の確認です。
このように、これまでの品質マネジメント(TQM)は、結果の出来栄えの確認やり方の適切性の確認の両輪で回っているのです。これがQC:品質管理QA:品質保証です。

そして、これらはいずれも『正しいことが分かっている』ことを前提としています。QCは ”出来栄えが定められた範囲(正しい結果)から外れないようにする取り組み” であり、QAは ”プロセス(やり方)を示すことで結果が正しいことを保証する取り組み” です。QCもQAも、あらかじめ ”何が正しいか” が決められており、それに基づいて判定して制御するのです。つまり《IN→変換→OUT》がルールとして定められています。ですので、一つの《IN》に対して正しい《OUT》は常に一つです。

これに対して、AIはどうでしょうか?
AIは、《IN→変換→OUT》のデータを大量に学習しておくことで、問われた《IN》に対して最も可能性が高い《OUT》を返します。 (記事『超解説:AIの仕組み』参照)
AIでは《IN→変換→OUT》のルールは定められていません。その時点でのルールを決めるのがAIなのです。学習したデータが変われば、それによってルールが変わり、《OUT》も変わります。つまり、AIが導き出す結果を人間があらかじめ知る事はできませんまた、ルールが変わるので ”何が正しいか” を決められませんAIが導き出す結果が正しいか間違っているかを判断することができないのです。

これはAIの特性であり、大きな利点でもあり欠点でもあります。
《IN→変換→OUT》をルールとしてあらかじめ定めることは非常に手間がかかることです。些細な違いを厳密に定義して、それらの組み合わせを考える必要があるからです。中には、現実にはめったに無いことや、あり得ないこともあるかも知れません。それでも《間違った結果》を生じさせる可能性があるものは全て洗い出しておく必要があるのです。
それに対してAIは単純です。《IN→変換→OUT》のデータを大量に覚え込ませておけば、AIがルールを決めてくれるのです。”作業を行う立場” にとっては、AIは極めて優秀な存在です。

一方、”作業を検証する立場” にとっては大問題です。何しろ、”何が正しいか” が決められていないのですから、これまでの《QC:品質管理》と《QA:品質保証》の考え方が通用しません。具体的に困ることは次の3つです。
1.AIが出した答えが正しいか間違っているか分からない … 合否を判定できない
2.間違っていても、問題箇所が分からない … どこを修正すればいいか分からない
3.間違っていても、誰の責任なのか分からない … 改善できない

これについて多くの人が、「AIは正解を教えてくれるものではなく候補を示すもの。必ず人が確認して判断することが重要」と教えています。私もそう考えています。
しかし、実はこれは、合否や修正や改善の判断を、判断基準ではなく人の判断に丸投げしていることを意味しています。少し昔は「人間の判断は曖昧だから判断基準に従え!」と言ってマニュアル化を推進していたのですが、AIの浸透によって判断基準を作ることができなくなったので、また人の判断に戻った、すなわちマニュアル化の流れに逆行しているのです。

ここまで述べたように、実は品質とAIは相性がとても良くありません。ISO9001とAIは相性が悪いのです。一方は「定められたルールが前提」であり、もう一方は「ルールを定めない」ことが大きなメリットだからです。
それでは、これまでISO9001に取り組んできた組織は、AI導入によってどのような影響があるでしょうか? AIを ”製品・サービスの提供” に取り入れるにはどうすればよいのでしょうか?

ISO9001におけるAIの位置づけを考えると、真っ先に思い当たるのが「作業ツール」としての位置づけですね。単なるOAツールとしてAIを用いる場合は問題なく適応できるでしょう。ただし、品質に関わる計測ツールなどでは精度が問題になります。計測ツールの結果が正しいことを証明しなければならないのです。

また、AIの結果を製品・サービスに組み込む場合も問題です。
”AIの結果を組み込む” とは、例えば、制御データや制御プログラムなど、AIで解析して生成した結果です。 (記事『AI家電のなぞ』参照
製品・サービスに組み込むものは、設計・開発として《IN→変換→OUT》の実証をISO9001で求めているため、AIにそのまま適用させるのは難しいのです。

例えば、次のようなことを考えなければなりません。
AIの結果を採用する基準、人間が介入する仕組み
AIの検証と承認 →「AIが勝手にやったこと」を許さない
”AIが間違える” リスクへの対応
AIリテラシーの教育(責任と権限、リーダーシップの裏付け)


実は、AIを安全に運用するための規格があります。それが ISO42001 です。
ISO42001は、AIマネジメントシステム(AIMS)の国際規格です。組織がAIを《安心・安全》且つ《責任ある形》で開発・利用できるようにするための枠組みであり、AIを開発・提供・利用する組織に適用されます。いわば、ISO9001(QMS)のAI特化版です。
「ISO9001のAI特化版」と言っても中身は大きく違います。規格を定める思想から異なるのです。
ISO9001(QMS)は 予測可能な品質を安定させる」ことが目的です。
ISO42001(AIMS)は「予測不能なAIの不確実性を制御する」ことが目的です。

そのため、AIMSには ”リスクアセスメント” という取り組みが求められています。リスクアセスメントとは「危ないことを前もって洗い出して、どこがどれくらい危ないかを見積もり、対策を決める作業」のことです。具体的には次のステップで行います。
 ① 起きそうなことを洗い出す … 何が起こり得るか?
 ② 起きる頻度・確率を考える … どれくらい起こりそうか?
 ③ 起きた時の影響を考える  … 起こったらどれくらい困るか?
 ④ 優先度に応じて対策する  … だから何をする?(対策を決める)

”不確実性の制御” が必要なマネジメントは、AIだけではありません。環境や情報セキュリティも人間には予測不能なので、同じ様に不確実性の制御が必要です。したがって、EMSやISMSにもリスクアセスメントが求められています。品質(QMS)は予測が可能なのでリスクアセスメントは行いません。「MS(マネジメントシステム)規格」には、QMSのように ”予測可能なもの” を扱う規格と、EMSやISMSのように ”予測不能なもの” を扱う規格があるのです。AIMSは、QMSとEMS/ISMSの両方の要素を備えたハイブリッド規格と言えます。

“ハイブリッド規格” について少し具体的に示します。AIMSと他のMSとの共通点を整理したものが次です。
(a)全MS共通
  マネジメントシステムの骨格(文書化・PDCA・内部監査・改善・リーダーシップ)
(b)QMSと共通
  製品品質・設計管理・変更管理・妥当性確認・サプライヤ管理
(c)EMS/ISMSと共通
  リスクアセスメント・影響評価・モニタリング・インシデント管理・リスク対応策
(d)AIMS固有
  データ品質・バイアス管理・説明可能性・人間監督・社会的影響・AIライフサイクル管理

これを踏まえて、AIの品質問題(特に、AIに仕事を任せる時の品質保証)についてお話します。
既にQMSを構築してISO9001の認証を受けている組織は、AIの導入によってマネジメントスタイルをどのように変えなければならないでしょうか
QMSとAIMSが想定している領域を示したものが下の図です。ここで、[AI利用者(製品提供者)]の組織におけるマネジメントシステムについて考えます。

理想は、QMSの要素とAIMSの要素を両方備えた独自のマネジメントシステムを構築することです。
これからマネジメントシステムを整備する組織(ISO9001に取り組もうとしている組織)は、記事『ISO9001の誤解2(業務マニュアル)』を参考に社内全体のシステムを作ることをお勧めします。
既にQMSを運用している組織(ISO9001認証を受けている組織)は、現在運用しているマネジメントシステムを全面的に作り変える必要はありませんが、QMSとAIMSの両方を満たすマネジメントシステムに変更することが望ましいと考えます。それには次の段取りをお勧めします。
① 上記の(c)(d)のルールを新しく定める(ISO42001を参考に)。
② (b) に該当する業務または製品・サービスを、[AIの有/無]で分離・整理する。
③ AIに関わる部分について、新たな管理ルールを定める(ISO42001を参考に)。
 
その際、AIの品質を保証する根拠として、①で定めたルールを紐付ける。
④ 社内のマネジメントシステム全体の整合性を確認する。
 
その際、記事『ISO9001の誤解2(業務マニュアル)』で紹介した〈社内プロセス体系図〉によって、AIに関わる部分を示すと良いでしょう。

総じて、AIの活用をQMSに取り入れる際には、「AIという新たな対象を管理するルールを追加する」という意識ではなく、AIが引き起こす無秩序や混乱に歯止めをかける」という意識で取り組んだ方が良いでしょう。つまり、野放しになりがちなAIを、人間がちゃんとコントロールするためのルール」を作るのです。その手本となるのがISO42001です。


以上、「AIに仕事を任せた時の品質問題」ついて私見を述べました。なお、今回もAIと議論して情報を得ました。私自身はISO42001に関わったことがないので、もしかすると間違っているかも知れません。あしからず。
また、近々ISO9001の改定が予定されているので、AIに関する何らかの動きがあるかも知れません。これらに関して新たな情報があれば、追々流しています。

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