前回の話題の最後に「平均値」と「中央値」が出てきましたが、これまで当サイトでこれらについて深く触れてきませんでした。拙著『エンジニアを目指す人のための「品質コラム」』で取り上げているので、今回はこれについて少し補足したいと思います。
今回は【平均】についてです。
まずはおさらいです。以下、書籍の内容を引用します。
”平均”とは文字通り《平らで均等にならした値》です。つまり「みな同じだとすると..」という値です。あるいは「何個もある値を”代表する値”」と言うこともできます。ところが、何を均等にするかによって、いろいろな平均があります。
◆ 値を均等にならす (例えば、試験結果、身長、年収 など)
これを、相加平均(または、算術平均)と言います。もっとも一般的な”平均”であり、単に「平均」と言えばこれです。
例えば、あるチームの身長が165, 180, 170, 160, 175cm の場合、平均身長は 170cm ですね。
相加平均は、棒グラフにして飛び出た部分を低い部分に埋めたときに真っ平になる値です。

ですが、161, 162, 163, 164, 200cm の時も平均は 170cm です。この時、170cmをこのチームを代表する値と言って良いでしょうか?

◆ 比率(倍率)を均等にならす (例えば、成長率、増加率 など)
これを、相乗平均(または、幾何平均)と言います。
例えば、1年目の成長率が前年比 1.2倍、2年目が 2.0倍の時の平均成長率を考えてみましょう。相加平均では (1.2+2.0)/2=1.6 となりますが、それだと2年間で 1.6×1.6=2.56倍 となります。実際には、2年間で 1.2×2.0=2.4倍 に成長したのですからおかしいですね。この場合の平均成長率は、√(1.2×2.0)≒1.549 です。
◆ 効率(単位当たりの性能)を均等にならす (例えば、往復の平均速度 など)
これを、調和平均と言います。並列につないだ電気抵抗の合成抵抗もこれになります
例えば、100kmの行程を、行きは時速100km/h、帰りは時速50km/hで走った場合を考えてみましょう。相加平均では (100+50)/2=75km/h となります。しかし、行きの時間は100/100=1時間、帰りの時間は100/50=2時間なので、総走行時間は3時間です。往復したので総距離200kmを3時間で割ると、実際の平均時速は時速66.7km/hです。
それぞれの平均値の求め方は次の通りです。

このように、『平均』といってもいろいろなものがあります。普段、私たちが使うのは《相加平均》が多いと思いますが、ときどき他の平均を扱う場面もあります。今求めているのは何の平均なのかよく考えましょう。
なお、同じ様に ”○○平均” という言葉に「加重平均」というものがありますが、これは上記の3つとは概念が全く違うものなので混乱しないでください。加重平均とは、平均値を求める際にデータによって重み付けを行うことです。例えば、工学系学校の入学試験で数学の点数を2倍として扱うことです。ですので、上記のどの平均にも関係します。
相加平均、相乗平均、調和平均、加重平均をまとめると、以下の通りです。

ここからは、《平均》を用いるときに陥りがちな”罠”についてお話します。普段当たり前に使っている言葉なので、罠に陥らない様に注意してください。3つあります。
1.「平均=相加平均」という思い込み
これは、先ほど説明した通りです。
「足して個数で割るのが平均」と思い込んでいる人は案外多くいます。数年分の売上前年比を足して年数で割るとか.. 行きの速度と帰りの速度を足して2で割るとか.. やっていませんか? あるいは、EXCELはスプレッドシートで何も考えずにAVERAGE関数を使っていませんか? 何でもかんでも「足して個数で割ればいい」というわけではありません。注意してください。
2.「平均値は集団を代表する値」という錯覚
これは、先ほどの「161, 162, 163, 164, 200cm のときの平均」のことです。この時、平均値の170cmをこのチームを代表する身長と言って良いでしょうか? 平均値を「複数の値を代表する値」と考えがちですが、必ずしもそうではないことを知っておいてください。
「○○を代表する△△」は考え方しだいでいろいろあります。面白い例を挙げます。「日本の真ん中(中心)」はどこでしょうか? 実は〈中心〉を決める基準(経緯度、人口重心、端からの距離、歴史的伝承など)によって、「日本の真ん中・へそ」が20~30ヶ所くらい存在していると言われています(興味のある方は探してみてください)。これと同じ様に、「複数の値を代表する値」にも様々な考え方があります。
これについては次回お話します。
3.「平均を対応すれば大丈夫」という慢心
これは、誰もが知らず知らずに陥ってしまいがちな感覚です。
『平均は集団の代表 → 最も多い値 → それ以外の値は少ない → それ以外の値は気にしなくていい』
という意識が無意識に生じるのです。
極端な例で言えば、『日本人成人の平均身長165cmに合わせて自動車の運転シートを作る』ようなものです。「平均は集団の代表だから平均身長の人が大多数」と思いがちですが、164.5cm~165.5cmの人は全体の5%もいません。160cm~170cmに拡大しても50%弱です(平均身長165cm、標準偏差8.5cm の正規分布として計算)。これでは多くの人が運転しにくいですね。ですから、運転席のシートは前後に移動調整ができるようになっているのです。
このようなことは実際に多くあります。例えば、社員教育を実施する際の難易度設定です。平均的な社員をターゲットにすると、能力が低い社員はついていけません。また、優秀な社員にとっては退屈なものになります。”作業の標準化”と同じですね(*1)。ですので、社員教育を企画する際には、能力別(低、中、高)に分ける方がよいでしょう。3階層でいいかどうかは状況によりますが、少なくとも「全てをまとめて平均すればいい」という考えは危険です。
*1:標準化については、記事『会社の品質は、最低品質の人・チームで決まる』参照
これは【層別】も同じです。層別とは、集まったデータを解析する際に、特定の条件によってデータを分類してから分析することです。データによっては異なる条件のデータが混在していることがあり、それを全てをまとめた平均値を求めても意味のある情報は得られません(*2)。
*2:層別については、記事『すべては波でできている』参照

コメント